フラクタル次元を変えていくと物質の性質はどうなるのか?

物質の形状で決まるフラクタル次元と物質の示す性質との普遍的な関係

同じ物質でもその大きさや形によってその物質の性質(物性)が全く変わってしまうことは、ナノテクノロジーなどの普及により、広く知られた事実となっています。この研究で取り上げたテーマは、物質の大きさや形状によって物性がなぜ、どのように変わっていくかを明らかにすることです。物質の大きさや形などの情報を一つの数値に表した概念にフラクタル次元と呼ばれるものがあります。本研究では,イットリウム・バリウム・銅系の超伝導物質を用いて,そのフラクタル次元を変えた多数のサンプルを用意しました.その物性と構造(原子の並び方)を実験によって詳しく調べ、その結果を理論計算(コンピュータシミュレーション)で解釈しました。その結果、いろいろな物質に共通した特徴として、フラクタル次元の違いによって,その物質の硬度、電気的性質や磁気的性質などあらゆる性質の変化が、物質の種類によらず,全く同じように生じていくことが分かりました。これは今回発見されたフラクタル次元と物性の関係が、自然界の根本的法則の一つであることを示唆しています。

夜空の星から生命体に至るまで、世の中に存在する色々な物体は、大きさや形は様々でもすべて縦、横、高さを持った三次元といわれる共通のユークリッド次元を持っています。ナノテクといわれる最先端の技術を使って、物質をどんなに薄く、小さく削っても、三次元であることには変わりはありません。従って次元を変えようとすることは、いわばタイムマシンや永久機関を目指すのと同じで、不可能なことだと信じられてきました。しかし、数学(幾何学)上の概念であるフラクタル次元に注目すれば、それは可能になります。

フラクタル次元とは、ユークリッド次元を非整数次元にまで拡張して一般化したもので、自然界にある多くのものが二次元と三次元の間の非整数のフラクタル次元で表現できます。フラクタルとは“中途半端な、破片の”といった意味です。とはいえ、実際に例えば2.92次元といわれてもどういった図形なのか想像がつきません.そういった意味でフラクタル立体とは、掴みどころのない“泡”のような存在です。しかし、中途半端な次元を持った立体図形は、樹木や海岸線、神経系、脳、血管、雲、星雲など身の回りのあらゆるところに実在し、自然界では“最も自然な”形とも言えます。

2種類の物質が混合する際にもその境界線や界面は非整数のフラクタル次元を取りながら、混ざっていきます。このことを利用して、本研究グループではある特殊な有機物を物質に混ぜることによって色々なフラクタル次元を持った固体(粉末)試料を作製し、その電気的性質・磁気的性質とフラクタル次元との相関をこの10年間ほど調べてきました。その結果、2.9次元付近などいくつかの特定のフラクタル次元において、異なる物質の異なる電気物性・磁気物性がすべて共通して特異的に向上したり、低下したりすることが分かりました。つまり、物性の値そのものは物質によって異なっていても、ある特定のフラクタル次元の状態では特異的な物性値を示すという特徴が物質の種類によらずに存在する、ということです。それを説明するために幾何学的なモデルを立て、そのフラクタル次元の物体が持つ表面積、体積、密度などを計算して、構造的な安定性とフラクタル次元との関係をコンピュータシミュレーションで導き出しました。その計算結果と。実測した色々な物性のフラクタル次元依存性が正確に一致したため、物性とフラクタル次元性との一般的関係が証明されました。

構造と物性が強く関連していることは以前から知られていましたが、構造のフラクタル次元と物性との一般的、系統的関係を見出した研究例は今回の研究が初めてです.物質の原子や分子といった微細な構造ではなく、もっと大まかな構造である、フラクタル次元という特徴があらゆる物質のあらゆる性質を根本から支配していることが分かったことは大きな意義と言えます。

参考 URL1: https://doi.org/10.1039/D1CP04709D

論文情報

Universal relationship between sample dimensions and cooperative phenomena: Effects of fractal dimension on electronic properties of high-TC cuprate observed using electron spin resonance. Toshio Naito and Yoshiaki Fukuda. Physical Chemistry Chemical Physics (2022). DOI: 10.1039/D1CP04709D. Advanced Online Publication on 2021 (December 14), Selected as a Hot Article on 2022 (February 2).

助成金等

  • Grant-in-Aid for Scientific Research (C) (23540432) from JSPS

図表等

  • 泡の中のフラクタル立体

    泡の中のフラクタル立体

    フラクタルとは“中途半端な、破片の”といった意味である。実際例えば2.92次元といわれてもどういった図形なのか想像がつかない。そういった意味でフラクタル立体とは、掴みどころのない“泡”のような存在である。

    credit : 内藤俊雄(愛媛大学)
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  • フラクタル次元の変化―三次元から2.5次元へ

    フラクタル次元の変化―三次元から2.5次元へ

    奥から手前に並んだ順に三次元の立方体から徐々にフラクタル次元を落とし、一番手間の黄色い立方体は2.5次元である。つまりフラクタル次元を下げることは空洞を増やしていくことに相当する。今回の実験では、この空洞に当たる部分が物性には関係しない特殊な有機物で占められている。

    credit : 内藤俊雄(愛媛大学)
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  • フラクタル次元の変化―三次元から2.5次元へ

    フラクタル次元の変化―三次元から2.5次元へ

    小さい方から順に並んだ青や黄色の立方体は、互いに少しずつフラクタル次元が違っている。一番小さい青の立方体が三次元で、一番大きい黄色い立方体は2.5次元である。つまりフラクタル次元を下げることは空洞を増やしていくことに相当する。今回の実験では、この空洞に当たる部分が物性には関係しない特殊な有機物で占められている。

    credit : 内藤俊雄(愛媛大学)
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問い合わせ先

氏名 : 内藤俊雄
電話 : 089-927-9604
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所属 : 大学院理工学研究科