マラリア撲滅を加速する新診断法の開発

三日熱マラリア肝内休眠型キャリアの血清診断マーカーの開発

愛媛大学プロテオサイエンスセンター、株式会社セルフリーサイエンス、The Walter and Eliza Hall Institute of Medical Research (WEHI)、パスツール研究所、Foundation for Innovative New Diagnostics (FIND)を主要なメンバーとする国際共同研究グループは、マラリア撲滅対策に立ちはだかる難題である三日熱マラリア肝内休眠型キャリアを見つけることのできる血清診断マーカーの開発に成功しました。これにより、マラリアのサーベイランスが強化されマラリア撲滅が加速できます。

三日熱マラリアは、アジア太平洋地域や中南米で広く流行しているマラリアです。蚊の吸血によって感染したマラリア原虫の一部が、肝内休眠型と呼ばれる原虫となって肝臓内で生きたまま発育を停止することが特徴です。通常の治療薬は肝内休眠型には効果がありません。そのため治療後も、何ヶ月間も症状を起こさずに肝臓に潜んでいます。そして何らかのきっかけで眠りから覚めると、再びマラリアを発症し、蚊に刺されていないのに何度も再発を繰り返します。しかし肝内休眠型原虫の感染の有無は、現在の技術では診断できません。そのため無症状肝内休眠型キャリアが見過ごされ、三日熱マラリアの撲滅を阻んでいます。したがって、マラリア撲滅のためには、三日熱マラリア肝内休眠型キャリアを見つけることのできる診断法の開発が最重要課題となっていました。

三日熱マラリア発症者はその後9ヶ月間は肝内休眠型キャリアである確率が非常に高いことが知られていました。そこで本研究では、過去9ヶ月間の三日熱マラリア原虫の感染を予測できる血清診断法の開発のため、1)予測に適した抗体を誘導する三日熱マラリア抗原を探索すること、2)選択された個別抗原の感染予測能を検証し、さらに予測精度を上げるためにはどの抗原の組合せが適切なのか解析すること、を目的に実施しました。

1)先ず、タイ及びブラジルにおいて三日熱マラリア患者を治療後にフォローアップし採取した血清を用いて、愛媛大学発のコムギ無細胞タンパク質合成技術を用いて作製した342種類の三日熱マラリア原虫タンパク質に対する抗体量をアルファスクリーンによって測定し、三日熱マラリア感染9ヶ月目の判定に適した抗原を60種類選択しました。2)次に、タイ、ブラジル、ソロモン諸島の流行地で三日熱マラリアの感染状況を1年間追跡し観察終了時に採取した血清を用て、上記で選択された60種類の抗原に対する血清サンプル中の抗体量を測定し、過去9ヶ月の三日熱マラリア感染の診断予測精度を解析しました。その結果、予測精度がベストとなるのは8種類の抗原を組み合わせた場合であり、その予測精度は感度と特異性が80%となりました。さらに、この組合せを用いることにより、無症状肝内休眠型キャリアを診断し、治療すれば三日熱マラリアの流行を約7割減少させうることが判りました。

この研究成果により、これまで対策が困難を極めた三日熱マラリアの無症状肝内休眠型キャリアの診断キットの開発を推進でき、マラリア撲滅の加速が期待できます。

参考 URL: https://www.nature.com/articles/s41591-020-0841-4

論文情報

Rhea J. Longley, Michael T. White, Eizo Takashima, Jessica Brewster, Masayuki Morita, Matthias Harbers, Thomas Obadia, Leanne J. Robinson, Fumie Matsuura, Zoe SJ Liu, Connie S. N. Li-Wai-Suen, Wai-Hong Tham, Julie Healer, Christele Huon, Chetan E. Chitnis, Wang Nguitragool, Wuelton Monteiro, Carla Proietti, Denise L. Doolan, Andre M. Siqueira, Xavier C. Ding, Iveth J. Gonzalez, James Kazura, Marcus Lacerda, Jetsumon Sattabongkot, Takafumi Tsuboi, Ivo Mueller, Nature Medicine, 26, 741-749, doi: 10.1038/s41591-020-0841-4, 2020 (May 12).

助成金等

  • Global Health Innovative Technology (GHIT) Fund (T2015-142)
  • JSPS科研費 (JP15H05276 & JP16K15266)
  • United States National Institute of Allergy and Infectious Diseases (5R01 AI 104822 & 5U19AI089686-06)
  • Australian National Health and Medical Research Council (1092789, 1134989 & 1143187)
  • The Walter and Eliza Hall Institute Innovation Fund
  • TransEPI consortium (supported by the Bill & Melinda Gates Foundation)
  • National Research Council of Thailand, Howard Hughes Medical Institute
  • Wellcome Trust (UK)
  • Brazilian National Council for Scientific and Technological Development
  • United Kingdom Government

図表等

  • 三日熱マラリア肝内休眠型キャリアの血清診断マーカーの開発

    三日熱マラリア肝内休眠型キャリアの血清診断マーカーの開発

    (A) 三日熱マラリアの肝内休眠型キャリアを抗体で検出.


    マラリア感染後、体内に作られた多種類の抗体は、治療後様々な半減期で抗体価が低下する。三日熱マラリア患者は、治療後9ヶ月間肝内休眠型キャリアとなっている。そこで、過去9ヶ月間の三日熱マラリアの感染を予測できる半減期の抗体(緑色のグラフ)を見つけることができれば、肝内休眠型キャリアの血清診断法の開発ができる。


    (B) 肝内休眠型キャリアの血清診断マーカー.


    8種類の三日熱マラリア原虫タンパク質抗原に対する抗体反応が、80%の感度と特異性で過去9ヶ月間の三日熱マラリアの感染を予測できる。


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問い合わせ先

氏名 : 高島 英造
電話 : 089-927-9939
E-mail : takashima.eizo.mz@ehime-u.ac.jp
所属 : プロテオサイエンスセンター