赤道をはさんだ隔離分布

~新種のヒメドロムシを九州で発見~

愛媛大学大学院農学研究科 吉冨博之准教授とホシザキグリーン財団 林成多主任研究員は、九州から新種のヒョウタンヒメドロムシPodonychus gyobu sp. nov.を発見・記載しました。

本発見の注目すべき点としては、この属がインドネシア・スマトラ島の沖にあるシベルト島からのみ知られていることで、赤道をはさみインドネシアと日本(九州)に隔離的に分布することです。その理由は明らかになっていません。幼虫の形態も解明し、外部形態の記載と共に生態的な特徴についても論文化しました。なお、学名の種名“gyobu”はNPO法人北九州・魚部に因んでいます。

ヒメドロムシ科はコウチュウ目カブトムシ亜目に属する水生昆虫で、日本から57種が知られています。主に河川に生息し、体長が1~5㎜と小さいにも関わらず比較的よく研究されているのは、河川環境の指標生物として調査されているからです。最近発行された図鑑「日本の水生昆虫」(文一総合出版)にも日本産ヒメドロムシ科は全種が掲載されています。

NPO法人北九州・魚部は、九州を中心に魚類や水生昆虫などを中心に調査しその成果を一般に公開してきました。2018年に北九州・魚部が大分県内の小河川で水生昆虫類の調査を行っている際に、体長1mm程度の見慣れないヒメドロムシを採集しました。新種の可能性があると考えたことから、専門家である吉冨博之准教授と林成多主任研究員に研究を依頼しました。
この種は、触角の節数が6節であること、独特な雄交尾器の形状を有することから、かなり特殊な形態形質を有していました。文献類の調査などにより、このヒメドロムシは、1997年にインドネシア・スマトラ島の沖にあるシベルト島から発見され、その後一切の記録がないPodonychus属に属することが判明しました。また、追加の野外調査により、大分県内の3か所で生息場所を発見し、本種の幼虫も解明することができました。生息場所における生息しているポイントはかなり限定的で、小河川でヨシの根が川岸にはみ出している部分から得られますが、生息するには特殊な微環境の要求があるようです。

本発表論文では、成虫と幼虫の形態を電子顕微鏡などで詳細に観察し、ヒョウタンヒメドロムシPodonychus gyobu sp. nov.と命名し記載しました。成虫の形態も独特ですが、幼虫の形態はたいへん特徴的で、特に腹部にあるY字型の突起は他のヒメドロムシ科の幼虫に見られない独特な形態形質でした。
種の学名「gyobu」はNPO法人北九州・魚部に因みます。彼らの調査研究活動が今回の発見に繋がったことは間違いありません。また、和名の「ヒョウタン」は、本種の体型が瓢箪型をしていることと初めて発見された宇佐市が「宇佐ひょうたん」で有名なことに因みます。

どうしてこのPodonychus属のヒメドロムシは、インドネシアと日本に隔離的に分布しているのでしょうか?我々は今後調査を行うことにより東南アジアや東アジアの他の地域でも本属の種が発見される可能性があると考えています。しかし、本論文を投稿するに当たり、原稿の査読者からは2000年代に中国でヒメドロムシが集中的に調査されたにも関わらず本属の種が見つかっていないことを指摘されました。本属の種が見つかりにくい理由として、小さな体の大きさと特殊な生息微環境によるものと考えています。
本種はたいへん特徴的な形態を有しており系統的位置関係もはっきりしていません。今後は遺伝子を調べ分子系統解析による進化の過程を解明させることが望まれます。また、現在知られている生息地がかなり限定されていることから、他の生息地の探索や生息地の保全も望まれます。
九州地方の河川に生息する淡水魚や水生昆虫の中には、特産種が多く含まれており、九州地方の生物多様性の独自性と貴重性を示すものと考えられてきました。今回発見されたヒョウタンヒメドロムシもそんな九州の生物多様性の魅力を語る上で欠かすことができない存在だと思います。

参考 URL: https://zookeys.pensoft.net/article/48771/

論文情報

Unexpected discovery of a new Podonychus species in Kyushu, Japan (Coleoptera, Elmidae, Elminae, Macronychini), Hiroyuki Yoshitomi, Masakazu Hayashi, ZooKeys 933: 107–123, 18 May 2020, doi: 10.3897/zookeys.933.48771

助成金等

  • Joint research expenses from the Hoshizaki Green Foundation

図表等

  • ヒョウタンヒメドロムシの成虫

    ヒョウタンヒメドロムシの成虫

    生体を持ち帰り室内で撮影(中島 淳 撮影)

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  • ヒョウタンヒメドロムシの成虫

    ヒョウタンヒメドロムシの成虫

    ホロタイプの背面写真

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  • ヒョウタンヒメドロムシの幼虫

    ヒョウタンヒメドロムシの幼虫

    電子顕微鏡写真(林 成多撮影)

    credit : 吉冨 博之(愛媛大学)
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問い合わせ先

氏名 : 吉冨 博之
電話 : 089-946-9898
E-mail : hymushi@agr.ehime-u.ac.jp
所属 : 大学院農学研究科(ミュージアム兼任)