淡水性二枚貝マツカサガイ、イシガイの激減が、それらに産卵する希少種ヤリタナゴと国内外来種アブラボテとの交雑を加速させる

地球の生物多様性の保全に寄与する地域の生物の保全

日本には、コイ科のタナゴ類が16種(亜種も含む)生息していますが、そのうち15種がレッドリストに掲載され絶滅の危機にあります。タナゴ類は、日本を含む東アジアで特に多様化したグループで、5 cm程度の小型魚ですが、美しい体色をもち、江戸時代からタナゴ釣りが盛んになるなど、古来より私たち日本人に愛されてきた魚です。もともと平野部の小河川に生息していましたが、そのような場所は都市や宅地、農地として開発されてきたことで、生息域が縮小し、数を減らしてきました。また、淡水性の二枚貝の鰓の中に卵を産むという興味深い生態を持ち、そのため貝の減少による影響も危惧されてきました。私たちは、マツカサガイとイシガイ(両種とも愛媛県では特定希少動植物種に指定)が、この30年間に激減した松山平野の小河川で、準絶滅危惧に指定されているヤリタナゴ(愛媛県では絶滅危惧IA類かつ特定希少動植物種に指定)と、国内外来種であるアブラボテとを調査し、残された数少ない貝をタナゴ類が過剰に利用し、それにより希少在来種のヤリタナゴと、国内外来種アブラボテとの交雑が促進されていることを明らかにしました。

日本には、コイ科のタナゴ類が16種(亜種も含む)生息していますが、そのうち15種がレッドリストに掲載され絶滅の危機にあります。タナゴ類は、日本を含む東アジアで特に多様化したグループで、5 cm程度の小型魚ですが、美しい体色をもち、江戸時代からタナゴ釣りが盛んになるなど、古来より私たち日本人に愛されてきた魚です。もともと平野部の小河川に生息していましたが、そのような場所は都市や宅地、農地として開発されてきたことで、生息域が縮小し、数を減らしてきました。また、淡水性の二枚貝の鰓の中に卵を産むという興味深い生態を持ち、そのため貝の減少による影響も危惧されてきました。私たちは、マツカサガイとイシガイ(両種とも愛媛県では特定希少動植物種に指定)が、この30年間に激減した松山平野の小河川で、準絶滅危惧に指定されているヤリタナゴ(愛媛県では絶滅危惧IA類かつ特定希少動植物種に指定)と、国内外来種であるアブラボテとを調査し、残された数少ない貝をタナゴ類が過剰に利用し、それにより希少在来種のヤリタナゴと、国内外来種アブラボテとの交雑が促進されていることを明らかにしました。私たちが本研究で明らかにした点は以下です。

(1) マツカサガイはヤリタナゴとアブラボテ、さらに国外外来種のタイリクバラタナゴに過剰に利用され、貝一個体に最大220個ものタナゴ卵が産み込まれていた。
(2) マツカサガイの密度が低い場所で、特にヤリタナゴとアブラボテとの交雑個体が産まれていた。
(3) 産卵できる二枚貝が少ないと、タナゴ類は集まって高密度になり、複数種が入り混じったグループ産卵となり、交雑が生じていると考えられる。

松山平野では、イシガイやマツカサガイの減少と、アブラボテとヤリタナゴとの交雑は現在も進行しており、1000万年という途方もない時間を掛けて地域に適応してきたこれらの種の集団が、私たちの生きている間にも姿を消してしまうおそれが高いです。日本列島が形成される前から、また私たちヒトより早く、この地で暮らしてきて、それぞれの地域に適応を遂げてきたヤリタナゴとアブラボテ(いずれも日本と朝鮮半島の一部にしか生息していない種)、これらがイシガイ類とともにこのまま生きていける豊かな水辺を、私たちは私たちの子供やさらに次の世代へと引継いでいかなければなりません。この研究は、松山平野の小河川に残された最後のヤリタナゴとマツカサガイの生息地に保全区を策定する必要があることを示します。保全区では、ヤリタナゴを守るために、国外外来種でヤリタナゴと交雑するアブラボテを侵入させないこと、またヤリタナゴ集団について遺伝子マーカーを用いたモニタリングを実施してアブラボテからの遺伝子浸透の程度を把握することが必要です。また、マツカサガイは、その幼生がヨシノボリ類に寄生し、稚貝は砂底でのみ生育するという生態的特性をもっています。そのため、マツカサガイを守るため、海から遡上してくるヨシノボリが多く生息し、清浄な砂底の底質を含む場所で、また貝の捕食者である外来種のコイが侵入できない場所を作り、管理することが必要です。

参考 URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/fwb.13629

論文情報

Decline of unionid mussels enhances hybridization of native and introduced bitterling fish species through competition for breeding substrate

Hiroki Hata, Yohsuke Uemura, Kaito Ouchi

Freshwater Biology

http://dx.doi.org/10.1111/fwb.13629

助成金等

  • Ministry of the Environment, Japan, Grant/Award Number: 4RFd-1201
  • Japan Society for the Promotion of Science, Grant/Award Number: 15H02420, 17K07568, 18KK0208 and 20K06814

図表等

  • ヤリタナゴ

    ヤリタナゴ

    愛媛県絶滅具IA、特定希少動植物種

    credit : 畑啓生(愛媛大学)
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  • マツカサガイ

    マツカサガイ

    愛媛県特定希少動植物種

    credit : 畑啓生(愛媛大学)
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  • 在来種のヤリタナゴと、国内移入種アブラボテとの過剰な二枚貝への密集

    在来種のヤリタナゴと、国内移入種アブラボテとの過剰な二枚貝への密集

    在来種のヤリタナゴ(ヒレがオレンジ色の種)と、国内移入種アブラボテ(体が濃いオリーブ色の種)との過剰な二枚貝(画面下の植木鉢の砂中に設置したマツカサガイ)への密集。この過剰な密集により一つの貝に最大222個のタナゴ卵が産みこまれていた。

    credit : 畑啓生(愛媛大学)
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問い合わせ先

氏名 : 畑 啓生
電話 : 089-927-9638
E-mail : hata.hiroki.mk@ehime-u.ac.jp
所属 : 大学院理工学研究科