日本に棲息する猛禽類の肝臓から農薬不純物を新たに発見!

野生鳥類の肝臓に蓄積する有害化学物質のスクリーニング分析を実施した結果、残留性有機汚染物質(POPs)に指定されている特定の有機ハロゲン化合物に加え、それらの不純物や環境変化体と考えられる物質群が猛禽類に生物濃縮していたことが本研究で明らかとなりました。

本研究チームは、大阪府の中津動物病院から提供を受けた貴重な野生鳥類の肝臓試料を用いて、環境中に潜む未知の有害化学物質を網羅的にスクリーニングしました。その結果、これまで他の野生動物種から検出報告例のない未同定物質が猛禽類の肝臓に高濃度蓄積していたことが明らかとなり、これらの物質は過去に国内で使用されていた有機塩素系農薬類の不純物もしくは環境変化体であることが示唆されました。この研究成果は、202168日に国際誌「Environmental Science & Technology」に掲載されました。

残留性有機汚染物質(POPs)に代表される有害な有機ハロゲン化合物は環境残留性や生物蓄積性が高く、生態影響が懸念されていることから、そのリスク評価は重要な課題となっています。とくにストックホルム条約(POPs条約)に指定されているポリ塩化ビフェニル(PCB)、ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)、クロルデン類(CHLs)といった既知の人工化学物質については、環境媒体やヒト・野生動物種を対象とした汚染モニタリング調査が国内外で広く実施されており、こうした調査では監視対象物質の検出に特化した定量分析法(ターゲット分析法)が一般的に適用されています。一方で、合成不純物や環境変化体などの物質群については法的な規制や監視の対象外であることに加え、従来のターゲット分析法では検知することが極めて困難です。実際、環境における監視対象外物質の検出事例は近年集積されつつありますが、それらの生物蓄積レベルや濃縮性などの態様は依然として明らかにされていません。

そこで本研究チームは、二次元ガスクロマトグラフ高分解能飛行時間型質量分析計(GC×GC–HRToFMS)と独自に開発した解析プログラムを駆使して、野生鳥類(陸棲および水棲鳥種)の肝臓に蓄積する有機ハロゲン化合物のノンターゲット分析と網羅的プロファイリングを実施しました。解析の結果、全ての検体から多様な監視外対象物質の検出が確認され、なかでも猛禽類はポリ塩素化ターフェニル(PCTs)や、DDTおよびCHL類縁物質を高濃度蓄積していたことが判明しました。とくにC15骨格を有するCHL類縁物質は本研究で初めて検出され、陸域生態系において高い生物濃縮性を示すことが示唆されました。本研究成果から、今後、監視対象外であるPOP様物質の化学構造の解明に加え、他の野生生物種への曝露実態と毒性評価に関する研究が必要と考えられました。

参考 URL1: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.est.1c00357

論文情報

Nontarget screening of organohalogen compounds in the liver of wild birds from Osaka, Japan: Specific accumulation of highly chlorinated POP homologues in raptors, Nguyen Minh Tue, Akitoshi Goto, Mitsuo Fumoto, Susumu Nakatsu, Shinsuke Tanabe and Tetsuya Kunisue, Environmental Science & Technology, 55, 8691-8699, doi: 10.1021/acs.est.1c00357, 2021 (June 08).

助成金等

  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)基盤研究A(19H01167,20H00646)
  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)挑戦的研究(萌芽)(19K22911)
  • 文部科学省 共同研究・共同研究拠点 「化学汚染・沿岸環境研究拠点(LaMer)」

図表等

  • 猛禽類に蓄積していたPOP様物質

    猛禽類に蓄積していたPOP様物質

    陸域食物網の頂点捕食者である猛禽類の肝臓からC15骨格を有するCHL類縁物質、DDT代謝物(DDE)の同族体、そしてPCTsが検出され、これら非監視対象物質の高い生物濃縮性が示された。

    credit : 国末達也(愛媛大学)
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