細胞の内部で、イオンチャネルが骨格を操っていた
細胞内膜に存在するプロトンチャネルの新機能
【研究成果のポイント】
・細胞の骨組みを調節する、細胞内のイオンチャネルを同定
・細胞内のイオンチャネル活性を直接測定
・ミクログリアの新たな働きの理解や、病気の仕組みの解明につながることに期待
【研究成果の概要】
脳の免疫細胞である「ミクログリア」において、これまで細胞表面で機能すると考えられてきたプロトンチャネル「Hv1/VSOP」が、細胞内部に存在する輸送小胞「エンドソーム」上でも機能し、細胞の骨組みであるアクチン骨格を精密に制御していることを世界で初めて明らかにした。
本研究では、最新の顕微鏡技術と、細胞内部の微小な膜構造からも直接イオン電流を計測できる電気生理学的解析手法(エンドソーム・パッチクランプ法)を組み合わせて解析を行った。その結果、Hv1がアクチン骨格の伸長を抑制する“ブレーキ役”として機能することで、細胞内の物流や骨組み制御に関与しうることを突き止めた。
この成果は、エンドソームのイオンチャネルが細胞の骨組みそのものを操るという新たな細胞制御様式を提示するものである。ミクログリアの機能異常は、多様な神経変性疾患の発症や進行とも深く関わることが知られている。本研究で示した新しい分子機構は、これらの疾患の病態理解を進めるとともに、将来的な新規治療戦略の構築につながることが期待される。
我々の脳を守る免疫細胞であるミクログリアは、細胞内の骨組みであるアクチン骨格をダイナミックに作り変えることで、不要な物質を取り除き、脳内の環境を健全に保っていると考えられている。これまでミクログリアにおいては、プロトンを運ぶチャネルタンパク質Hv1/VSOPが発現していることが知られていたが、これは細胞の表面である細胞膜において機能しその近傍のpHを調節していると考えられてきた。
今回、我々の研究グループは、Hv1が細胞表面だけでなく、細胞内部で物質輸送を担うことで知られる輸送小胞「エンドソーム」においても機能していることを明らかにした。最初に最新の顕微鏡技術と、細胞内の微小な膜構造から直接イオンの流れを測定できる高感度な手法であるエンドソーム・パッチクランプ法を組み合わせることで、Hv1がエンドソーム上で実際にプロトンチャネルとして働いていることを突き止めた。
さらに、Hv1を欠いたミクログリアを解析したところ、アクチン骨格が必要以上に伸長し、細胞の形や内部構造が乱れることが分かった。このことからHv1はアクチンの伸長を抑えるブレーキ役として機能することが示唆された。さらに詳細な生化学的解析から、Hv1はアクチンの末端に結合するタンパク質CAPZと相互作用し、アクチン骨格の伸びを適切に抑制していることが明らかになった。また、生きた細胞を用いたリアルタイム観察により、Hv1を持つエンドソームがアクチン骨格の先端部に結合している様子を捉えることに成功した。これらの結果は、エンドソーム上のイオンチャネルが、物理的にも細胞の骨組みの形成や配置に関与しているという、新しい細胞制御機構を示している。
論文情報
タイトル:Voltage-gated proton channel Hv1/VSOP regulates reciprocal interactions between F-actin and endosomes in microglia
著者:Takafumi Kawai, Daisuke Yoshioka, Pattama Wiriyasermkul, Risa Mori-Kreiner, Rizki Tsari Andriani, Megumi Kobayashi, Manabu Abe, Kenji Sakimura, Kazuki Nagayasu, Shushi Nagamori, Yasushi Okamura
掲載誌:Proc Natl Acad Sci U S A. 2026 Apr 21;123(16):e2521977123.
DOI: 10.1073/pnas.2521977123
助成金等
- JSPS科研費15K18575, 23K06334, 25K02442, 23K24066, 19H03401, 20H05791, 25H01334
- JST創発的研究支援事業 JPMJFR225Z
図表等
問い合わせ先
氏名 : 河合 喬文
電話 : 089-960-5241
E-mail : kawai.takafumi.ra@ehime-u.ac.jp
所属 : 愛媛大学医学部分子細胞生理学
