金ナノ粒子×半導体でエタノール検知

揮発性有機化合物を高感度にキャッチ

【研究のポイント】
・SmFeO3系p型半導体にAuナノ粒子を添加することで、酸素種の吸着・移動が促進され、特にエタノールに対する感度と選択性が大幅に向上
・Au含有量の増加がSmFeO3表面の格子酸素及び吸着酸素量を増加させることを確認
・DFT計算により、Au-SmFeO3界面でのエタノールの強い吸着と酸化反応の活性化を理論的に確認

【研究の概要】
本研究では、SmFeO3系p型半導体に金(Au)ナノ粒子を担持させることで、揮発性有機化合物(VOC)であるエタノールとトルエンの検知性能を高めることを目的としています。Auの添加により、センサ表面での酸素種の吸着と移動が促進され、特にエタノールに対する選択性と感度が向上することが明らかとなりました。さらに、DFT計算により、エタノールはAu–SmFeO3界面で強く吸着し、酸化反応が活性化されることが示された一方で、トルエンの応答性は低下しました。これらの結果は、Au–SmFeO3が高選択性のVOCセンサ材料として有望であることを示しています。

近年、VOC(揮発性有機化合物)はシックハウス症候群の原因物質として広く認識されており、その対策が重要な課題となっています。日本では2004年に大気汚染防止法が改正され、2006年から排出規制が実施されており、VOCは発がん性や呼吸器系への健康被害を引き起こす可能性があるため、適切な制御と管理が不可欠です。このような背景から、濃度の相対変化や大まかなレベルを迅速に把握できる点で有用であるため、安価で小型化が可能な半導体式VOCセンサが注目されています。しかし、そのガス選択性の低さが課題となっているため、本研究では、アルコールセンサの開発を目指して、エタノールとトルエンのVOC検出におけるAu(金)ナノ粒子を組み込んだSmFeO3ベースのp型半導体の相乗効果を調査しました。Auナノ粒子は、SmFeO3界面での強い吸着と触媒的酸化プロセスにより、特にエタノールに対するセンサーの選択性と感度を大幅に向上させることが分かりました。XPS(X線光電子分光)分析から、Au含有量の増加がSmFeO3表面の格子酸素と吸着酸素の量を増やすことが示され、DFT(密度汎関数理論)計算により、エタノールはAu-SmFeO3界面で強く結合し、酸素原子の移動がAu表面でより容易であるためエタノールの酸化反応を促進することが分かりました。これらの発見は、VOCセンシングにおいて、特にエタノール検出のための高選択性材料としてのAu-SmFeO3複合材料の可能性を示唆しています。

参考 URL1: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0925400525009189?via%3Dihub

論文情報

Title:Synergistic effects of Au nanoparticles in SmFeO3-based p-type semiconductors for ethanol and toluene detection
Authors:Tatsuya Joutsuka, Shinsuke Ishiguro, Kosei Kuryu, Masami Mori, Hiromichi Aono, Hiroyuki Yamaura, and Yoshiteru Itagaki
Journal:Sensors and Actuators B: Chemical, 442, 138142,
DOI:10.1016/j.snb.2025.138142, 2025 (June 16).

助成金等

  • 愛媛大学ReFuel研究ユニット助成金

図表等

  • Au-SmFeO<sub>3</sub>複合センサーにおけるエタノール検知

    Au-SmFeO3複合センサーにおけるエタノール検知

    エタノールはAu-SmFeO3界面に強く吸着され、Au表面で解離吸着した酸素により酸化されて最終的には水やCO2となる。

    credit : 城塚 達也(愛媛大学)
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  • Au-SmFeO<sub>3</sub>複合センサーにおける酸素スピルオーバー効果を介した(a)エタノール(EtOH)と(b)トルエン(Tol)検出のメカニズム

    Au-SmFeO3複合センサーにおける酸素スピルオーバー効果を介した(a)エタノール(EtOH)と(b)トルエン(Tol)検出のメカニズム

    SmFeO3表面の酸素はAuを介してエタノール反応を促進し、Au-SmFeO3界面が強力な結合部位となることで、エタノールが優先的に検出される。

    credit : 板垣 吉晃(愛媛大学)
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問い合わせ先

氏名 : 板垣 吉晃
電話 : 089-927-9755
E-mail : itagaki.yshiteru.mj@ehime-u.ac.jp
所属 : 機能材料工学講座 教授