気象コモンズ―新しい気象とのつきあい方
気象制御の民主的・ボトムアップ的アプローチの提案
【研究のポイント】
・気象制御は、豪雨や台風による被害の軽減に寄与し得る一方で、人間と気象との関係性を根底から変える可能性をもつ
・地域コミュニティを中心とした民主的・ボトムアップ的なアプローチとして、「気象コモンズ」という新しい考え方を提起
・気象コモンズの枠組みをベースとして、気象制御をめぐる幅広い市民的対話を進めていく必要がある
【研究の概要】
気候変動やそれに伴う異常気象が深刻化する中、気象改変への関心が世界中で高まりつつあります。日本でも、政府によるムーンショット型研究開発の目標8の下、極端風水害の軽減に向けて気象制御の研究開発プログラムを開始しました。気象制御技術は、激甚化しつつある豪雨や台風による被害の軽減に寄与し得る一方で、人類がこれまで築き上げてきた人間と気象との関係性を根底から変える可能性を孕んでいます。
今回「npj Climate Action」誌に掲載された記事は、気象制御のトップダウン的・技術主義的なアプローチとは一線を画し、地域コミュニティを中心とした民主的・ボトムアップ的なアプローチとして「気象コモンズ」という新しい考え方を提起するものです。筆者らはこの記事において、気象コモンズの枠組みをベースとして、気象制御をめぐる幅広い市民的対話を進めていくことを呼びかけています。
気候変動やそれに伴う異常気象が深刻化する中、気象改変への関心が世界中で高まりつつあります。日本でも、内閣府/JST(科学技術振興機構)が主導するムーンショット型研究開発の目標8の下、極端風水害の軽減に向けて気象制御の研究開発プログラムを開始しました。このプロジェクトでは、人工降雨、洋上風車、洋上カーテンなどの先端技術を用いて、気象条件に介入し、豪雨や台風の頻度や強度を抑制することを目指しています。こうした技術は、激甚化しつつある豪雨や台風による被害の軽減に寄与し得る一方で、人類がこれまで築き上げてきた人間と気象との関係性を根底から変える可能性を孕んでいます。
今回「npj Climate Action」誌に掲載された記事は、気象制御のトップダウン的・技術主義的なアプローチとは一線を画し、地域コミュニティを中心とした民主的・ボトムアップ的なアプローチとして、「気象コモンズ」という新しい考え方を提起するものです。ここで、「コモンズ」という言葉は、共有資源の管理に関する研究分野に基づいており、気象が「みんなのもの」であることを強調するものです。我々は「気象コモンズ」を「様々なスケールのアクター間の協力と信頼を促進することにより、気象に関わる資源とプロセスに対する集合的なスチュワードシップを可能にする、あるいは実現する社会生態システム」と定めています。気象コモンズの考え方は、人間と気象との豊かな関係に光を当て、気象制御の技術主義的なアプローチやその支配的な立場を批判的に検証し、その“行き過ぎ”を是正する有力なアプローチになり得ると期待されます。
我々は、気象制御の技術開発と共に、私たちの社会も気象と上手く付き合っていく能力を高めていく必要性を説いています。気象コモンズの枠組みは、私たちがどのように気象制御に取り組むべきかを自分たちで決めていくための幅広い市民的対話の出発点及び基盤となることを目指しています。
論文情報
タイトル:Commoning the weather: weather commons for a post-1.5 °C world
著者:Tsuyoshi Hatori, Christoph Rupprecht, Chris Berthelsen, Manon Simon, Rei Itsukushima, Takuya Iwahori, Kazuki Kagohashi, Kunihiko Kobayashi, Tomohiko Ohno, Masamitsu Onishi,Tomoki Takada, Norie Tamura, Kosei Yamaguchi and Aoi Yoshida
掲載誌:npj Climate Action
DOI : 10.1038/s44168-025-00302-w
助成金等
- JSTムーンショット型研究開発事業(JPMJMS2283)
図表等
-
気象コモンズのコンセプトのビジュアル化
この図は、2023年から2024年にかけて実施された一連のオンラインワークショップに基づいています。ワークショップには工学、法学、コモンズ、地理学、芸術、公共ガバナンスなど多様な分野の専門家15名が参加しました。この図は「気象コモンズ」が包含しうる範囲を可視化することで、多様なステークホルダーと共に気象コモンズの概念を構想し、共有し、発展させるためのツールなることを意図しています。全ての要素は相互に接続され、相互に関連しています。この集合体が一体となって、気象コモンズの概念が形成されています。
credit : 羽鳥剛史(愛媛大学)
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気象制御技術のイメージ
ムーンショット型研究開発の目標8におけるプロジェクト 「ゲリラ豪雨・線状対流系豪雨と共に生きる気象制御」において技術開発検討を進めている豪雨制御のための道具たち。
credit : 羽鳥剛史(愛媛大学)
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問い合わせ先
氏名 : 羽鳥 剛史
電話 : 089-927-9834
E-mail : hatori.tsuyoshi.mz@ehime-u.ac.jp
所属 : 社会共創学部