強磁性Fe-Ni不規則合金におけるFe-Fe原子対の伸長と圧縮率

原子スケールでの磁気体積効果の観測

【研究のポイント】
・強磁性Fe-Ni合金における磁気体積効果の起源が原子スケールではFe-Fe原子対の伸長であることを確認
・Fe65Ni35のインバー合金だけでなくNiリッチなFe-Ni合金でもFe-Fe原子対の伸長がその強磁性相で存在
・熱膨張ゼロのインバー効果は組成に依存する合金中のFe-Fe原子対の数と磁気転移温度で決まる

【研究の概要】
強磁性Fe-Ni合金における磁気体積効果の原子スケールの原因を高圧下での広域X線吸収微細構造(EXAFS)と逆モンテカルロ法による解析から求めた。熱膨張ゼロを示すFe65Ni35インバー合金だけでなく通常の熱膨張を示すNiリッチなFe-Ni合金でも強磁性相でのFe-Fe原子対の伸長と加圧による急激な収縮を磁気体積効果の原子スケールの起源として見出した。

Fe65Ni35 不規則インバー合金は強磁性転移温度であるキュリー温度(TC ∼ 505 K)までの広い温度範囲において極めて小さな熱膨張(α ∼ 1.19 × 10−6 /K) を示す。この熱膨張ほぼゼロの現象は「インバー効果」としてよく知られる。一方、Niの組成を僅かに増やすと熱膨張は典型金属のα ∼ 10−5 /K まで急激に増大し、キュリー温度も高温となる。巨視的なインバー効果の原因はFe65Ni35 合金の磁気体積効果が他の合金と比べて大きく、また、磁気体積効果の消失による体積収縮が格子振動による体積膨張を打ち消すことと考えられている。このとき、なぜインバー効果はNiが35 at.% の狭い組成領域でのみ見られるのだろうか?
我々は原子レベル(ミクロ)でのインバー効果と磁気体積効果の原因を広域X線吸収微細構造(EXAFS)およびX線回折の圧力変化データと、逆モンテカルロ(RMC)法を用いた解析により調べた。Fe65Ni35 不規則インバー合金のFe-Fe、Fe-Ni、Ni-Ni原子対の体積弾性率を求め、その結果をNi-リッチな強磁性不規則合金Fe55Ni45 and Fe20Ni80の結果と比較した。
その結果、最近接Fe-Ni、Ni-Niの原子対と比較したFe-Fe原子対の伸長は、インバー合金のFe65Ni35だけでなくNiリッチな強磁性合金Fe55Ni45 and Fe20Ni80の強磁性相でも確認できた。3つのボンドの体積弾性率B0は強磁性相では同程度であるが、強磁性が不安定となって磁化が減少するときに、Fe-Fe原子対のB0は小さな値を示して伸長が小さくなることが分かった。従って、磁気体積効果の原子レベルの原因はFe-Fe原子対の伸長であり、Ni組成による磁気体積効果の大小は合金中のFe-Fe原子対の数に起因すると考えられる。つまり、Fe-Ni合金中のFe-Fe原子対の数と磁気転移温度とのバランスがインバー効果の出現温度や圧力を決定づけると分かった。

参考 URL1: https://journals.aps.org/prb/abstract/10.1103/b3cl-fy2t

論文情報

Elongation and compression of Fe-Fe atomic pairs in Fe-Ni invar alloys: Microscopic observations of the magnetovolume effect in ferromagnetic Fe-Ni fcc-based alloys
Naoki Ishimatsu, Yusuke Kubo, Naoto Kitamura, Naomi Kawamura, Saori Kawaguchi-Imada, and Tetsuo Irifune,
Phys. Rev. B, 112, 064109/1-8 (2025),
doi: 10.1103/b3cl-fy2t, 2025 (August 20).

助成金等

  • JSPS科研費 20H05880, 21H05567, 21H01043, and 24K01148.

図表等

  • Fe-Fe、Fe-Ni、Ni-Niボンドの圧縮曲線と解析で決定された原子クラスター

    Fe-Fe、Fe-Ni、Ni-Niボンドの圧縮曲線と解析で決定された原子クラスター

    (左図)平均原子間距離の圧力依存性。十字のマークはGaussian関数のフィットで平均原子間距離を求めた結果であり、丸のマークは重心の計算値から平均原子間距離を求めた結果である。実線はBirch–Mrunungaham状態方程式でのガイド線である。強磁性相の低圧側ではFe-Fe原子対の伸長しているのに対し、常磁性相との相境界近くでは磁気的な不安定からFe-Fe原子対が急激に収縮する様子が分かる。(右図)逆モンテカルロ法で導出された原子クラスター。[121]方向から見たクラスター構造が描かれている。

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