電子と光子の中間のような不思議な電子
化学合成で電子の振舞を変えるレシピ
【研究のポイント】
・現代の化学合成は、新しい分子を作る時代から、新しい電子(の振舞)を作る時代へ
・電子は素粒子なので、質量や電荷といった基本的性質は変えられない。
・加速器を使っても、新しい電子は作れない。
・しかし、ある特殊な物質を合成できれば、あたかも別の粒子に生まれ変わったように、その振舞を変えることができる。
・そうした物質を複数合成し、電子の振舞の一つとして磁性を調べた結果、光子と電子の中間のような振舞をする電子が見つかった。
【研究の概要】
電子が物質中に分布している様子(形状)をバンド構造と言います。バンド構造は複雑な曲線や曲面から成る立体図形が通常ですが、例外的に直線や平面から成る部分を持つ場合があります。この部分に不対電子が入った場合、その電子はディラック電子と呼ばれ、やはり例外的な電気的、磁気的性質を現します。本研究では、精密な設計が可能な有機分子を使って、このようなディラック電子が存在している物質を開発しました。その磁性を調べたところ、これらの物質全てに共通する特徴が見られ、それはバンド構造の中の直線や平面部分に直接原因があることが分かりました。つまりこうした不思議な性質を示す物質群全体に共通する、根源的な性質を発見しました。
特異的な機能を示す物質というのは、物質科学の歴史の中で常に研究者たちの興味の中心にありました。中でも、最近、量子物質と呼ばれる特殊な物質群に世界中から注目が集まっています。それは物質の性質を担う電子が、光のように素早く動く粒子に変わっているからです。その原因は長年の理論研究によってわかっており、物質中の電子の分布を表す図形(バンド構造)に直線や平面などの形が含まれているからとされています。本研究ではこのような電子を含む一連の有機物質を開発し、その電気、磁気物性を調べました。その結果、磁気物性の特徴に共通点が見つかりました。それは上述のようなバンド構造に直接の原因があることが、本研究グループが独自に考えた理論から示されました。つまりこれらの有機物に限らず、すべての量子物質に共通する挙動が発見されました。量子物質は、その素早い電子を使うことで、情報処理や通信に画期的応用が期待されています。そのための第一歩に貢献する成果です。
参考 URL1: https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.jpclett.5c02197
論文情報
Universal Features of Magnetic Behavior Originating from Linear Band Dispersion: α-BETS2X and α’-BETS2Y(BETS = Bis(ethylenedithio)tetraselenafulvalene X = IBr2, I2Br, Y = IBr2, ICl2), Sakura Hiramoto, Koki Funatsu, Kensuke Konishi, Haruhiko Dekura, Naoya Tajima and Toshio Naito, The Journal of Physical Chemistry Letters, 16, 9116—9123, DOI: 10.1021/acs.jpclett.5c02197, 2025(August 26).
助成金等
- JSPS科研費 22H02034, 24K21755, 23H03964, and 24K01470
- キャノン財団 善き未来をひらく科学技術
図表等
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