環状構造を高密度に有する新しい炭素主鎖骨格ポリマーの開発
【研究のポイント】
・当研究グループが開発した独自の高分子合成技術を用い、新しいタイプの炭素主鎖骨格ポリマーの合成に成功した。
・今回合成に成功したポリマーは、主鎖骨格まわりに多数の環状構造を高密度に有しており、既存の高分子合成法では合成困難な構造を有している。
・熱的特性調査の結果、対応する環状構造を持たないポリマーに比べて著しく高いガラス転移温度を示すことが明らかとなった。
【研究の概要】
当研究グループでは、ジアゾ酢酸エステルと呼ばれる化合物をモノマーとする重合によって、新しいタイプの炭素主鎖骨格ポリマーが合成可能であることを世界に先駆けて報告しています。この重合法では、すべての主鎖炭素上に官能基を導入することができるため、生成ポリマーは、汎用樹脂をはじめとする一般的な炭素主鎖骨格ポリマーと比べて官能基が集積した構造をとります。以前、1分子中に2つの重合部位を有する2官能性ジアゾ酢酸エステルをモノマーとして用い、環化重合(主鎖に環状構造を形成しながら進行する付加重合)を行うことで、多数の環状構造を高密度に有するポリマー(C1環化ポリマー)の開発に成功していましたが、合成可能なポリマー構造に制約がありました。本研究では、これらの制限を取り除くべく、新しいモノマー合成法の開発を検討しました。その結果、多価アルコールの1つであるペンタエリトリトールを原料とする新規モノマー合成法の開発に成功し、得られた種々のモノマーを環化重合させることで、多様な環サイズや官能基を有する新しいC1環化ポリマーの合成に成功しました。さらに、得られた一連のC1環化ポリマーの特徴的な熱特性についても明らかにしました。本成果は、炭素主鎖骨格ポリマーの分子設計に関して新たな知見を与えるとともに、新しいポリマー材料設計への応用を期待させるものです。なお、本成果は、アメリカ化学会発行のMacromolecules誌電子版へ2025年6月25日に掲載されました。
炭素-炭素結合を主鎖骨格にもつポリマーを合成する最も一般的な手法の一つに、ビニル重合があります。ポリエチレンやポリプロピレンなどの汎用プラスチックをはじめ、工業的に有用な多くのポリマーが、このビニル重合によって合成されています。この手法は、ビニル化合物をモノマーとするため、主鎖骨格が2炭素ユニットごとに構築されます。一方で、当研究グループが世界に先駆けて開発したジアゾ酢酸エステルをモノマーとするC1重合法は、1炭素ユニットごとに主鎖骨格を構築してポリマー(C1ポリマー)を合成する手法です(図1)。そのため、すべての主鎖炭素上に官能基を導入することができ、一般的なビニルポリマー(多くの場合1炭素おきに官能基を有する)と比べて、官能基が集積した構造であることによる特徴的な性質や機能の発現が期待されます。
当グループでは以前、1分子中に2つの重合部位を有する2官能性ジアゾ酢酸エステルをモノマーとして用い、環化重合(主鎖に環状構造を形成しながら進行する付加重合)を行うことで、多数の環状構造を有する“C1環化ポリマー”の開発に成功しています。このC1環化ポリマーは、主鎖炭素がすべて環状ユニットに組み込まれたユニークな構造を持ち、対応するビニル化合物の環化重合で得られる環化ポリマー(C2環化ポリマー)よりも、環状構造がより密に集積した構造をとることから、その諸物性に興味が持たれていました。ところが、モノマー合成の都合上、合成可能なポリマー構造に制約がありました。
このような背景のもと本研究では、これらの制限を取り除く、新しい2官能性ジアゾ酢酸エステルの合成法の開発およびそのC1環化重合を試みました。その結果、多価アルコールの1つであるペンタエリトリトールを原料とする新しいモノマー合成法の開発に成功しました。この合成法を用いることで、多様な環サイズ(環員数が9~19まで)や官能基(水素結合形成が可能なウレタンユニットなど)を有する新規C1環化ポリマーの合成に成功しました(図2)。さらに、得られた一連のC1環化ポリマーの熱特性を調査したところ、今回得られたC1環化ポリマーは、対応する環状構造を持たないC1ポリマーに比べて著しく高いガラス転移温度を有することを明らかにしました。
本成果は、炭素主鎖骨格ポリマーの分子設計に関して新たな知見を与えるとともに、新しいポリマー材料設計への応用を期待させるものです。なお、本成果は、アメリカ化学会発行のMacromolecules誌電子版へ2025年6月25日に掲載されました。
論文情報
C1 Cyclopolymerization of Bis(diazocarbonyl)Compounds Derived from Pentaerythritol
ペンタエリトリトールから合成される2官能性ジアゾカルボニル化合物のC1環化重合
著者:Hiroaki Shimomoto*, Makoto Ishimoto, Tomomichi Itoh, and Eiji Ihara*
ジャーナル名:Macromolecules
発行日:2025年6月25日(電子版)
DOI: 10.1021/acs.macromol.5c00704
助成金等
- JSPS科研費 JP21H01988, JP22K05219, JP24K01540
図表等
-
図1
ビニル重合とC1重合
credit : Hiroaki Shimomoto, Makoto Ishimoto, Tomomichi Itoh, Eiji Ihara(Ehime University)
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図2
モノマー合成および環化重合
credit : Hiroaki Shimomoto, Makoto Ishimoto, Tomomichi Itoh, Eiji Ihara(Ehime University)
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問い合わせ先
氏名 : 下元 浩晃
電話 : 089-927-9949
E-mail : shimomoto.hiroaki.mx@ehime-u.ac.jp
所属 : 愛媛大学大学院理工学研究科