二重特異性抗体の治療効果を高めるBystander T細胞の同定

CAR-T細胞療法のもつ新たな効能の発見

愛媛大学大学院医学系研究科 血液・免疫・感染症内科学講座の加藤潤一大学院生、小西達矢助教 (輸血・細胞治療部)、越智俊元講師、竹中克斗教授らの研究グループが、CAR-T細胞療法後に再発したB細胞悪性リンパ腫症例に対して、二重特異性抗体 (BsAb) 療法を実施する新たな意義の解明に成功しました。本研究では、CAR-T細胞製剤内に含まれる、CARタンパクを発現しない活性化T細胞(Bystander T細胞)に着目しました。CAR-T細胞治療前から、治療後再発、そしてBsAb治療後に完全寛解に至った症例の治療経過を通じて、末梢血およびリンパ節に存在するT細胞クローンを追跡すると、メモリーT細胞の機能をもったCAR-T製剤内のBystander CD8+ T細胞が、経過とともに体内でクローン増幅している可能性が明らかとなりました。この成果は、CAR-T細胞療法後に実施するBsAb療法の新たな作用機序を示すだけでなく、この2剤を活用した難治性造血器腫瘍に対する新たな治療法の開発にも大きく貢献できるのではと期待されます。

再発難治B細胞悪性リンパ腫に対して、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法および二重特異性抗体(BsAb)療法が開発され、約半数の症例で治療効果が期待できることから、実臨床で盛んに使用されるようになっています。そして、さらなる治療効果の向上のために、最適な治療順序や、治療後体内での作用機序の解明が求められるようになっております。
愛媛大学医学部附属病院は、現時点で愛媛県唯一のCAR-T細胞療法実施施設であります。さらに、造血器腫瘍を中心に、BsAb療法も盛んに行っています。そこで本研究では、CD19 CAR-T細胞療法後に再発し、CD20 x CD3 BsAb療法を実施して完全寛解に到達したB細胞悪性リンパ腫症例を通して、ヒトT細胞の詳細な解析を行いました。具体的には、CAR-T細胞治療前、CAR-T細胞治療後、BsAb治療後の末梢血、CAR-T製剤、再発リンパ節に含まれるT細胞クローンを、治療経過とあわせて時系列に追跡しました。その結果、CAR-T細胞治療前と比べて、治療後にはメモリーT細胞の割合が増加してくること、そしてBsAb治療後にはさらに機能的なメモリーT細胞の割合が増加することが判明しました。さらに、CAR-T製剤内に含まれるCARタンパクを発現しない活性化T細胞(Bystander CD8+ T細胞)が、治療の経過とともに体内でクローン増幅すること、BsAb治療後に完全寛解に至った経過と一致して、最も増幅してくる可能性が明らかとなりました。
本研究は1症例を解析した内容ではありますが、とくにCAR-T製剤内に含まれるBystander T細胞の意義について初めて詳細に解析したものです。2つの新規治療法が同一の疾患に保険収載されている中で、CAR-T細胞療法とBsAb療法の治療順序を考察する重要性を示すことから、愛媛県だけでなく国内外の患者様に最適な治療を届けていく一助になるのではと期待されます。さらに、CAR-T細胞療法の新たな効能の解明や、今後は2剤を活用した難治性造血器腫瘍に対する新たな治療法の開発にも大きく貢献できる可能性があります。

参考 URL1: https://jitc.bmj.com/content/13/6/e011690

論文情報

Bystander CAR-CD8+ T cells in a CAR-T cell product can expand and enhance the antitumor effects of a bispecific antibody.
Junichi Kato, Tatsuya Konishi, Takatsugu Honda, Masaki Maruta, Shogo Nabe, Yuya Masuda, Meika Matsumoto, Natsumi Kawasaki, Yukihiro Miyazaki, Yasukazu Doi, Yasunori Takasuka, Jun Yamanouchi, Toshiki Ochi, Katsuto Takenaka
Journal for ImmunoTherapy of Cancer, 13(6), e011690, doi: 10.1136/jitc-2025-011690, 2025(June 24).

助成金等

  • Daiichi Sankyo Co.

図表等

  • BsAb療法におけるCAR-T製剤内Bystander T細胞の役割

    BsAb療法におけるCAR-T製剤内Bystander T細胞の役割

    CAR-T製剤内には、CAR-T細胞(濃茶)とCARタンパク陰性のBystander T細胞(濃・淡赤)とが含まれます(左)。CAR-T細胞によって腫瘍細胞が攻撃されると、体内で産生されるサイトカインによって、輸注されたBystander T細胞(濃・淡赤)、体内に残存するBystander T細胞(濃・淡緑)も増幅することができます(中央左)。このようなT細胞はメモリー形質を保有し(中央右)、CAR-T細胞が体内から消失し腫瘍が再発しても、二重特異性抗体を投与することで、とくに製剤内Bystander CD8+ T細胞(濃・淡赤)が増幅して高い抗腫瘍効果を誘導できる可能性があります(右)。

    credit : Junichi Kato,Tatsuya Konishi,Toshiki Ochi,Katsuto Takenaka,Ehime university
    Usage Restriction : Please get copyright permission

問い合わせ先

氏名 : 越智 俊元
電話 : 089-960-5296
E-mail : ochi.toshiki.eg@ehime-u.ac.jp
所属 : 愛媛大学大学院医学系研究科 血液・免疫・感染症内科学講座 講師