構造も機能も型破り!これまでにないドメイン構成を持つtRNAメチル化酵素を発見

好熱性アーキアThermococcus kodakarensis における新規tRNA修飾酵素の同定と機能解析

愛媛大学大学院理工学研究科の松田哲平さん(博士後期課程・大学院生)、山上龍太特任講師、堀弘幸教授’(現・名誉教授)らの研究グループは、徳島大学大学院創成科学研究科の平田章准教授、伊原碧さん(学部生)、および琉球大学大学院医学研究科の鈴木健夫教授との共同研究により、超好熱性アーキア Thermococcus kodakarensis のtRNATrpにおいて、6番目のシチジンのリボースを2′-O-メチル化する新規酵素を同定しました。本酵素は、これまでに報告されているtRNA修飾酵素とは全く異なる特徴的なドメイン構成をしていました。すなわち、本酵素の発見は、タンパク質科学に新知見を与えるものです。また、本酵素は、グアノシン以外のアデノシン、シチジン、ウリジンのリボースを2′-O-メチル化することができます。さらに、本酵素遺伝子を欠損させた変異株では高温条件下で生育の遅延が観察されました。このことから、2′-O-メチルシチジン(Cm6)修飾が、超好熱性アーキアの高温環境への適応に寄与している可能性が示唆されました。本研究成果は、英国Oxford University Pressが発行する学術誌 Nucleic Acids Research に掲載されました。

すべての生物は、タンパク質のアミノ酸配列を塩基配列情報(遺伝情報)としてゲノムDNA中に記録しており、それらの遺伝子情報は、転写と翻訳の過程を経て、タンパク質へと変換されます。tRNA(注1)は、mRNA(注2)上のコドンを読み取り、対応するアミノ酸をタンパク質合成装置であるリボソームへ運ぶアダプター分子です。tRNAは転写後に多くの化学修飾を受けることで、分子の安定性や機能が精密に制御されています。なかでも、第3の生命ドメインであるアーキアは、原始地球の過酷な環境で生存していたとされ、高温・高塩・低酸素などの極限環境に適応するため、tRNA修飾も独自の進化を遂げていると考えられています。
2019年、私たちの研究室は85℃という高温環境で生きる超好熱性アーキア Thermococcus kodakarensis(T. kodakarensis)(注3)から単離したtRNATrp(注4)のヌクレオチド配列を報告しました(Hirata et al.,J. Bacteriol, 2019)(図1)。このtRNAには、6位に2′-O-メチルシチジン(Cm6)(注5)が存在することが判明していましたが、その修飾を担うtRNAメチル化酵素(注6)は不明のままでした。
本研究では、比較ゲノム解析(注7)を用いて、T. kodakarensis および近縁種や他アーキアのゲノム情報を比較し、候補遺伝子を抽出しました。その中から、TK1257遺伝子に着目し、精製した組換えタンパク質を用いた生化学的解析および高感度RNA質量分析(注8)により、この遺伝子産物(TK1257タンパク質)がCm6修飾を担うtRNAメチル化酵素であることを明らかにしました。
さらに、アミノ酸配列と構造モデルの解析から、この酵素が、tRNAの3′末端を認識し、結合するTHUMPドメインと、特徴的な縫い目構造を持つSPOUT触媒ドメインの両方を持つことがわかりました。THUMPとSPOUTドメインの構成は、これまでにない組み合わせです(図2)。このことから、私たちはこの酵素を、TrmTS(Transfer RNA methylation gene product with THUMP and SPOUT domains)と命名しました。
TrmTSはアデノシン、シチジン、ウリジンのリボースを2′-O-メチル化する活性を持っている一方で、グアノシンのリボースに対してはメチル化を行いませんでした。このような基質選択性も今までに報告がなく、本酵素の独自の特性です。
また、trmTS遺伝子を欠損させたT. kodakarensis変異株では、93℃という高温環境下で生育の遅延が観察され、Cm6修飾がtRNAの構造安定化を通じて、高温適応に寄与している可能性が示唆されました。
本研究は、従来の酵素分類には収まらないtRNAメチル化酵素の新たな存在様式と、その生理的役割を初めて示したものです。THUMPドメインとSPOUTドメインを併せ持つtRNAメチル化酵素という新たな分子枠組みを提示し、tRNA修飾の多様性と進化、ならびに極限環境への適応戦略に関する新たな知見を提供する成果となりました。

【用語解説】
(注1) トランスファーRNA(tRNA)
mRNA上のコドンに対応するアミノ酸を運び、タンパク質合成の場であるリボソームに供給するアダプター分子。
(注2))メッセンジャーRNA(mRNA)
タンパク質の設計図となる遺伝情報のコピーをもつRNAのことを指す。リボソーム上でtRNAによって設計図が読み取られ、遺伝情報にもとづいたタンパク質が合成される。
(注3) Thermococcus kodakarensis
鹿児島県小宝島の硫気孔の熱水から単離された絶対嫌気性アーキア。65~100℃の温度範囲で生育し、至適生育温度は85℃。
(注4) tRNATrp
mRNA中のトリプトファンコドンを読み取り、トリプトファンをリボソームに供給するアダプター分子。
(注5) 2′-O-メチルシチジン
シチジンのリボースの2′-OH基がメチル化されて、2′-OCH3となった修飾ヌクレオシド。
(注6)tRNAメチル化酵素
メチル基(–CH3)をtRNAに導入する酵素。
(注7)比較ゲノム解析
複数の生物種のゲノム情報を比較することで、共通性や種特異的な遺伝子を明らかにする手法。
(注8) RNA質量分析
質量分析によりRNA分子を解析する手法。さまざまな核酸消化酵素を用いてRNAをヌクレオシドや短い断片に分解し、液体クロマトグラフィーで分離しつつ質量分析を行う。

論文情報

A transfer RNA methyltransferase with an unusual domain composition catalyzes 2′-O-methylation at position 6 in tRNA, Teppei Matsuda, Ryota Yamagami, Aoi Ihara, Takeo Suzuki, Akira Hirata and Hiroyuki Hori, Nucleic Acids Research, in press, 10.1093/nar/gkaf579

助成金等

  • JSPS科研費(JP24K09352、JP20H03211、JP24K09381)

図表等

  • <em>Thermococcus kodakarensis</em> tRNA<sup>Trp</sup>の二次構造

    Thermococcus kodakarensis tRNATrpの二次構造

    T. kodakarensis tRNATrpのヌクレオシド配列。今回の研究では赤で示したCmに着目した。

    credit : 松田哲平、山上龍太、堀弘幸、愛媛大学
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  • TrmTSのトポロジー図

    TrmTSのトポロジー図

    NFLD, THUMP ドメイン, リンカー, SPOUT ドメインをそれぞれ灰色, 水色, 緑, 紫色で示した。

    credit : 松田哲平、山上龍太、堀弘幸、愛媛大学
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問い合わせ先

氏名 : 山上 龍太
電話 : 089-927-8531
E-mail : yamagami.ryota.bn@ehime-u.ac.jp
所属 : 大学院理工学研究科