メジャーライトの高温高圧実験に初めて成功
地球深部マントルの主要構成物質の一つであるメジャーライト(高圧ザクロ石)の弾性波速度測定から推測される沈み込みスラブの行方と挙動
研究のポイント:
・マントル主要構成鉱物の一つであるメジャーライト(MgSiO3)の地震波伝播速度を18万気圧1700℃の高温高圧条件下で測定成功
・マントルのガーネット中にメジャーライト成分が増えていくと物質は弾性的に柔らかくなる。
・メジャーライトの存在は、マントル遷移層上端の410km付近の地震波伝播速度の観測値を鉱物学的に説明するとともに、下端の660km付近に関してはメジャーライトではなくカンラン石高圧相やCaSiO3成分の影響
愛媛大学などからなる研究者グループは、超高温超高圧の状態において、地球を構成するザクロ石の一種であるメジャーライトと呼ばれる鉱物の超音波伝播速度の測定実験に成功しました。この実験は、地球のマントル遷移層(地球の表面の下、深さ410 kmから660 kmの領域)の底に相当する、約18万気圧、1700℃の超高温超高圧の条件下で行われました。その条件下でのメジャーライトの測定実験は今まで行われていませんでした。今回の実験成功により、いまだに明確な解明がなされていないマントル遷移層の鉱物組成の推定に重要な手がかりが得られました。マントル遷移層の上端である深さ410km付近における地震波速度の観測値については、ザクロ石に含まれるマグネシウムやアルミニウムの割合によって説明できる可能性があります。一方、地表下560kmより深部のマントル遷移層については、それだけでは観測値が説明出来ず、マントルにおける物質の循環や混合といったダイナミックな挙動が影響しているかも知れません。
ケイ酸塩鉱物の一種であるザクロ石(ガーネット)は造岩鉱物であり、地球の地殻と上部マントルの主要な成分です。ガーネットには、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、カルシウムなど多種の元素による多様な組み合わせによるさまざまな種類があります。その中でも、メジャーライトガーネットと呼ばれる鉱物は、別のマントル構成鉱物である輝石が深さとともに徐々に周囲のガーネットに溶け込むことで生成する、地表から300 kmより深い部分にしか存在しないケイ素に富んだガーネットです。2008年にNature誌で発表された愛媛大学の入舩らによる実験結果では、地球のマントル遷移層の深さ560 km付近では、40%のメジャーライトガーネットと60%のオリビン(ケイ酸塩鉱物の一種でカンラン石)で構成されるパイロライトと呼ばれる仮想組成で説明できることを示しています。しかしながら、マントル遷移層の上下の境目(上は410 km不連続面、下は660 km不連続面と呼ばれる)付近においては、地震学的観測データを説明できる鉱物組成モデルはいまだ未解明で議論が続いています。
それに対するいくつかの仮説が提唱されている中で、ガーネットの化学組成の多様性による説明が近年有力視されています。その理由は、沈み込むプレート(スラブ)とその周囲のマントルの組成には大きな違いがあるため、地球上のそれぞれのプレート沈み込み帯における地質学的プロセスの相違がメジャーライトガーネットの化学組成にも地域性・多様性をもたらしていると考えられているからです。マントル遷移層の地震波伝播速度の地震学的観測データをガーネット組成の多様性によって説明するためには、マントル遷移層の幅広い温度・圧力条件下におけるガーネットの熱力学特性を精確に知る必要があります。
MgSiO3であらわされるメジャーライトは、ケイ素に富むメジャーライトガーネット族の中でも最も主要な成分です。そのため、メジャーライトの熱力学特性を知ることは、幅広い温度条件・圧力条件・化学組成におけるメジャーライトガーネットの地震波伝播速度を導くために重要です。しかし、メジャーライトは16万気圧から22万気圧の1500℃以上という高い温度圧力範囲の中でのみ安定な鉱物です。そのため、その温度と圧力を同時に達成する条件下での地震波伝播速度の測定実験は技術的に難しく、今まで行われていませんでした。
しかしながら、愛媛大学を中心とした研究者らは、18万気圧、1700℃までの高温高圧条件におけるメジャーライトのP波、S波速度、密度の測定を成功させました。この実験では、兵庫県にある放射光施設スプリング8のBL04B1ビームラインに設置されているマルチアンビル高圧装置を使用し、超音波速度(地震波伝播速度)測定と放射光X線回折技術を用いた高温高圧その場観測実験を行いました。
メジャーライトは常圧下では存在しない鉱物であるため、メジャーライトの低圧型である輝石(エンスタタイト)を試料として用いました。エンスタタイトを高圧装置によってマントル遷移層に相当する高温高圧下におくとメジャーライトが合成されるので、それの地震波伝播速度をその高温高圧の状態のまま直接測定しました。
測定結果から分かったのは、マントル遷移層の温度条件下においては、色々な種類のガーネットの中でメジャーライトは一番小さい弾性定数を持つということです。これは、圧力増加につれて(深くなるにつれて)メジャーライト含有量が増えていくと、マントルのガーネットは弾性的に柔らかくなることを示唆しています。さらに、ほかのガーネットと比べると、カルシウムを含有するメジャーライトのせん断弾性率(ずれ変形のし易さ)は、陽イオン配列の秩序性に大きく影響され得る可能性が予想されることも分かりました。これは、実際の地球内部における立方晶ガーネットから正方晶メジャーライトガーネットへの変形に際し、せん断弾性率の値に多様性が生じ得ることを示唆します。
マントル内のガーネットにおけるメジャーライト成分の増加は、マントル遷移層の中ほどの深さでスラブの沈み込み速度が減少する理由かも知れません。また、カンラン石の相転移における鉄成分や部分溶融といった現象とともに、マントル遷移層上端の深さ410kmでの地震波速度の不連続の原因の一つとも考えられます。一方、マントル遷移層下端の深さ660km付近での地震波速度の観測値はメジャーライトガーネットの組成では説明できず、デイブマオアイト(CaSiO3)の存在やカンラン石高圧相の鉄含有量などによる解釈が妥当と思われます。今回の実験で得られた新しいデータは、マントル遷移層内での沈み込みスラブの挙動や行方や、過去にマントル内に沈み込んだ地殻成分の循環といった、マントルダイナミクスの理解の進展につながります。
参考 URL1: https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2021GL093499
論文情報
Sound velocity of MgSiO3 majorite garnet up to 18 GPa and 2000 K
Chunyin Zhou, Steeve Gréaux, Zhaodong Liu, Yuji Higo, Takeshi Arimoto, Tetsuo Irifune
Geophysical Research Letters, 48, e2021GL093499
doi: 10.1029/2021GL093499 (15 July, 2021)
助成金等
- JSPS科研費 25220712
- SPring-8 パワーユーザー 2012B0082
図表等
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メジャーライトの高温高圧実験に初めて成功
今回行ったメジャーライトの超音波速度測定実験とその結果から推測される沈み込みスラブの模式図
credit : 愛媛大学
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所属 : 地球深部ダイナミクス研究センター