π-共役系を超えた非局在化
不対電子を安定化するための芳香環と側鎖の超共役
炭化水素誘導体を使って、分子性伝導体の限界を破った。分子性伝導体の構成成分となり得るのは、これまで平面型のπ-共役系分子に限られていた。平面型分子を使うと、結晶中ではそれらが積み重なって柱のような構造体を作る場合が多い。この方向には電気が流れるが、柱を横切る方向には流れない。そのうえ、柱を曲げるような力を受けた場合や、低温になるとどの方向にも電気を流さなくなるため、伝導性物質として活用するには限界があった。しかし今回の研究では立体的な形状をした分子を用いたため、こうした問題はなくなった。伝導体を設計する新たな方針を示した。
有機分子等を用いた伝導体は80年以上前から研究されており、それを応用した製品も多数知られている。2000年に白川英樹先生がノーベル化学賞を受賞されたのも、その一例である。しかしこの80年間解決されていない根本的課題がある。それはこうした材料や物質がほとんどすべて平面型の分子から成っているという点である。その結果、物質内の特定の方向にしか電気を流さず、製品の変形や温度変化などですぐに電気を流さなくなってしまうという短所が共通している。本研究はそこに一石を投じた。具体的には、全体的な形状が平面ではない分子を使って、アルミニウムなどの金属と同じように電気を流す物質を実現した。これにより、上記の問題がなく電気を流せる人工の金属が実現した。
参考 URL1: https://doi.org/10.1039/d5tc01367d
論文情報
Metallic crystals with a three-dimensional narrow band based on an aromatic hydrocarbon derivative, Misako Ikeda, Yoshiki Sasaki, Yoshino Fujikawa, Shigeki Mori, Kensuke Konishi, Keishi Ohara, Haruhiko Dekura, Hiromichi Toyota, Masayoshi Takase, Ami Mi Shirai, Yuta Murotani, Ryusuke Matsunaga and Toshio Naito, Journal of Materials Chemistry C, 13, 12650—12656, doi:10.1039/D5TC01367D, 2025 (May 20).
助成金等
- Japan Society for the Promotion of Science(JSPS) KAKENHI Grant Number 22H02034, 24K21755, 23H03964, and 24K01470
図表等
-
雄蕊ではなく花弁から花粉をまくように
有機分子からなる固体でも、電気をよく流す物質があります。分子を花、電子を花粉に例えると、分子から成る物質中を電気が流れる様子は、花から花へ花粉が飛び散って行く様子と似ています。その際、花の中央の雄蕊から花粉が飛ばされるのではなく、花びらの端まで伝って隣の花の花びらに飛び移るような電子の運び方をする物質があることが、この研究で見つかりました。
credit : 英国王立化学会
Usage Restriction : 必ず原論文を引用してください; http://xlink.rsc.org/?DOI=D5TC01367D or https://pubs.rsc.org/en/journals/journalissues/tc -
スイレンのような形に広がった伝導電子の電子雲
スイレンのような形の芳香環と側鎖;側鎖の末端まで非局在化した不対電子
credit : 内藤俊雄
Usage Restriction : 使用許可を得てください
問い合わせ先
氏名 : 内藤 俊雄
電話 : 089-927-9604
E-mail : tnaito@ehime-u.ac.jp
所属 : 理学部