アトピー性皮膚炎を長びかせるリンパ球の特徴とは?

低レベルBach2含有Tリンパ球の存在が、アレルギー性皮膚炎の症状の悪化や慢性化を引き起こす

【研究の概要】
愛媛大学大学院医学系研究科感染防御学講座の大森深雪講師、山下政克教授らの研究グループは、同研究科の今村健志教授ら、武藤潤講師、東京慈恵医科大学の岡部正隆教授との共同研究により、Tリンパ球で正常な機能を保つ働きをもつタンパク質「Bach2」が、アトピー性皮膚炎の終息に重要な役割を担うことを発見しました。本研究により、Tリンパ球の状態によって変動するBach2レベルを適切に管理することで、アトピー性皮膚炎が早期に治療できる可能性を示しました。この研究の成果は、アトピー性皮膚炎の慢性化を抑えるための、Tリンパ球に着目した新しい治療法開発の進展に貢献できるのではと期待されます。

アトピー性皮膚炎は、国民の約10%が発症しているアレルギーで、その症状は、社会的ストレスと深く関連することが知られています。ゆえに、社会的活動が活発な大人が発症すると、慢性化することが少なくありません。アトピー性皮膚炎の炎症部位に動員された免疫細胞から放出される炎症性サイトカインは、本来、病気のもとになる微生物から生体を防御するのには必要なタンパク質です。しかし、アトピー性皮膚炎などの患部で過剰な量が長い時間放出されると、環境中に存在する異物から第一線で私たちの体を防御する皮膚(表皮)バリアを破壊してしまいます。これらの炎症性サイトカインはTリンパ球からまず放出され、続いて他の免疫細胞や組織細胞へと波及するため、山下政克研究グループでは、Tリンパ球の状態を適切に管理することによって、アレルギーの病態を制御できないか、という着眼点で基礎研究を行っています。今回の研究では、Tリンパ球の機能を正常に保つ働きをもつタンパク質「Bach2」に着目して、Bach2の含有レベルをモニターできるマウス、高レベルBach2を含有するTリンパ球をもつ(Bach2 Tg)マウス、Bach2を含有しないTリンパ球をもつ(Bach2 KO)マウスを作製して、アトピー性皮膚炎の病態とTリンパ球のBach2レベルの関係性を調べました。
その結果、今回の研究では、アトピー性皮膚炎の患部には、(1)低レベルや中レベルのBach2を含有するTリンパ球が集積すること、(2)Bach2 Tgマウスではアトピー性皮膚炎が起こらない一方で、Bach2 KOマウスではアトピー性皮膚炎の症状が酷くなり、炎症が長引く(慢性化する)こと(図1)、(3)Bach2 KOマウスでは皮膚のバリア機能や構造をよりぜい弱になることが示されました(図2)。
通常、Bach2の含有レベルは、Tリンパ球の状態によって動的に変化します。この研究結果は、Tリンパ球におけるBach2の含有量を適切に管理・調節することによって、アトピー性皮膚炎の慢性化を抑えられる可能性を示しており、Bach2レベルに着目した新たな治療法の開発の可能性が拓かれました。

【学術的なポイント】
・Tリンパ球における Bach2 レベルの低下は、アトピー性皮膚炎発症の鍵となる。
・Bach2 発現の減少により、Tリンパ球からIL-13(アレルギー症状の原因となる炎症性サイトカインのひとつ)が大量に長く放出され、アレルギー症状が慢性化する。
・アレルギー症状が慢性化したBach2 KOマウスでは、表皮構造の破壊が起こり、バリア機能がぜい弱になる。

【今後に向けて】
今回の研究では、アトピー性皮膚炎の発症や慢性化と Tリンパ球における Bach2 レベルの関連を明らかにしましたが、「どのようにして Tリンパ球における Bach2 の含有レベルを調節できるのか」、「ヒトのアトピー性皮膚炎患者でも BACH2 発現が低下しているのか」という課題が残されました。

参考 URL1: https://doi.org/10.1016/j.jaci.2025.01.036

論文情報

Loss of Bach2 in T cells causes prolonged allergic inflammation through accumulation of effector T cells and disruption of epidermal barrier,
Miyuki Omori-Miyake, Ryosuke Kawakami,
Makoto Kuwahara, Masataka Okabe, Jun Muto, Takeshi Imamura, Masakatsu Yamashita,
Journal of Allergy and Clinical Immunology, in press,
doi: 10.1016/j.jaci.2025.01.036, 2025 (February 7).

助成金等

  • JSPS科研費(23H02736, 22K08433, 21K08205)
  • 武田科学振興財団, ホーユー科学財団, 内藤記念科学振興財団

図表等

  • 実験的アトピー様皮膚炎を誘発した部位の皮膚

    実験的アトピー様皮膚炎を誘発した部位の皮膚

    対照マウスと比較して、Bach2 KOマウスでは皮膚炎が酷くなるのに対し、Bach2 Tgマウスでは皮膚炎がおこらない。

    credit : 大森深雪、山下政克、愛媛大学
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  • 研究成果の概略

    研究成果の概略

    低レベルのBach2を含有するTリンパ球の集積は、表皮バリアの破綻、表皮構造のぜい弱化、組織の線維化(正常な組織の機能が失われること)が起こる。Tリンパ球のBach2レベルを適切に管理することで、アトピー性皮膚炎を早期に終息させ、炎症の慢性化や皮膚バリアの破綻を防ぐことができる可能性がある。アトピー性皮膚炎を発症さないためにも極めて重要である。

    credit : 大森深雪、山下政克、愛媛大学
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問い合わせ先

氏名 : 大森 深雪
電話 : 089-960-5274
E-mail : momorim@m.ehime-u.ac.jp
所属 : 愛媛大学大学院医学系研究科 感染防御学講座