室温で外界分子に応答して光る人工細胞を創製

【研究のポイント】
・「リボスイッチ(分子応答性の遺伝子発現制御配列)とレポータータンパク質遺伝子の融合体」および「小麦無細胞系」を天然細胞サイズのリポソームに封入して新規の人工細胞(非生存)を創製
・当該人工細胞は、室温下において、発現阻害物質の影響を受けることなく、外界標的分子の濃度依存的にレポータータンパク質(光るタンパク質)の発現を促進
・リボスイッチは標的分子ごとに合理設計できるため、複数種のレポータータンパク質と組み合わせることで、同種数の標的分子を同時検出可能

【研究の概要】
愛媛大学プロテオサイエンスセンター(PROS)生体分子工学部門の小川敦司准教授らの研究グループは、同部門が開発・改良を進めてきたリボスイッチ(分子応答性の遺伝子発現制御配列)をレポータータンパク質(光るタンパク質)遺伝子と融合し、PROSが開発した小麦無細胞系とともに天然細胞サイズのリポソーム(巨大単層膜ベシクル:GUV)に封入することで、発現阻害物質の影響を受けることなく外界標的分子の濃度依存的に強度を変えて光る人工細胞(非生存)の創製に成功しました。当該人工細胞は、従来の同種の人工細胞(原核生物の無細胞系を使用したもの)とは異なり、真核生物の無細胞系(小麦無細胞系)を基盤としているため、室温で機能する大きなメリットがあります。また、同部門では、小麦無細胞系で働くリボスイッチの設計法を幾つか確立していて、標的分子ごとに合理的に設計・作製可能です。実際に本研究では、3種の標的分子に対応するリボスイッチをそれぞれ作製して、異なる種類のレポータータンパク質遺伝子と融合させることで、各分子に特異的な色で光る人工細胞を創りました。各人工細胞は、直交性を持って(別の標的には応答せずに)機能するため、3種の人工細胞の混合物による全標的分子の同時検出も実現できました。

無細胞系(無細胞タンパク質発現システム)は、生細胞の制約を受けずに添加遺伝子(mRNA or DNA)から検出容易なレポータータンパク質を発現できます。また、無細胞系を天然細胞のように脂質二重膜などで覆って人工細胞化すれば、周囲の発現阻害物質による悪影響も回避できるため、バイオセンサーの基盤として注目されています。
これらの無細胞系を基盤としたセンサー(人工無細胞センサーを含む)が標的分子のシグナルをタンパク質発現に変換するためには、相応の機能を導入する必要があります。その有力な候補として挙げられるのが、「リボスイッチ」です。リボスイッチは、分子応答性の遺伝子発現制御配列で、タンパク質遺伝子と融合させると、特定の分子に応答して当該タンパク質の発現を制御(抑制 or 促進)できます。天然に存在するリボスイッチの種類(応答する分子の種類)は限られていますが、ユーザー定義の分子に応答するリボスイッチを人工的に作製することも可能です。実際に、「無細胞系」および「促進型の人工リボスイッチとレポータータンパク質遺伝子の融合体」をリポソームに封入することで、外界分子(リポソーム膜を透過した分子)に応答して内部でレポータータンパク質を発現する人工細胞センサーが幾つか報告されてきました。
しかし、これまでに報告された同種の人工細胞は、原核生物の無細胞系を使用しているため、室温付近で上手く機能しない問題がありました。また、リボスイッチの設計についても課題があり、標的分子の多様性を拡大することは困難でした。
そこで本研究では、広範囲の室温領域で機能する小麦無細胞系(真核生物の無細胞系)とともに、当該無細胞系において高効率で機能する高モジュール性の(標的分子を容易に変換可能な)促進型人工リボスイッチを使用しました。後者については、我々が確立した合理設計法に基づいてリボスイッチ内の標的分子認識部位を交換することで、応答する標的分子を変換できます。実際に本研究では、3種の標的分子(薬剤)に対応するリボスイッチをそれぞれ作製して、異なる種類のレポータータンパク質(緑色, 赤色, or 青色に光るタンパク質)遺伝子と融合させました。また、これらの融合体をそれぞれ小麦無細胞系とともに天然サイズのリポソーム(巨大単層膜ベシクル:GUV)に封入することで、「外界標的分子の濃度依存的な強度」かつ「各標的分子に特異的な色」で光る人工細胞を創りました。各人工細胞は、直交性を持って(別の標的には応答せずに)機能するため、3種の人工細胞の混合物を用いることで、全標的分子を室温で同時検出することにも成功しました。

参考 URL1: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acssynbio.4c00696

論文情報

Simultaneous Detection of Multiple Analytes at Ambient Temperature Using Eukaryotic Artificial Cells with Modular and Robust Synthetic Riboswitches
Hajime Takahashi, Yuri Ikemoto, Atsushi Ogawa*
ACS Synthetic Biology, 2025, 14, 771-780,
doi: 10.1021/acssynbio.4c00696

助成金等

  • JSPS科研費 24H01147, 24K08603

図表等

  • 人工細胞群による複数種の標的分子の同時検出(イメージ図)

    人工細胞群による複数種の標的分子の同時検出(イメージ図)

    外界の標的分子が膜透過により人工細胞内に進入した際に、内部に特異的なリボスイッチが存在すると、標的分子とリボスイッチの結合を介して融合遺伝子から光るタンパク質が発現する。標的分子ごとにタンパク質の種類(すなわち光る色)を変えることや、複数種の標的分子を異なる色で同時に検出することも可能である。(当該論文はオープンアクセスなので、実際の実験結果はそちらをご参照ください)

    credit : Atsushi Ogawa, Ehime University
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問い合わせ先

氏名 : 小川 敦司
電話 : 089-927-8450
E-mail : ogawa.atsushi.mf@ehime-u.ac.jp
所属 : 愛媛大学プロテオサイエンスセンター生体分子工学部門