11種のハクジラから化学汚染や生活史の謎を紐解く指標有機ハロゲン化合物を検出

【研究のポイント】
・ハクジラ類の皮下の厚い脂肪層(脂皮)に蓄積する多種多様な有機ハロゲン化合物をガスクロマトグラフィー質量分析計(GC/MS)で網羅的に検出・定量
・ハクジラ類11種の脂皮中に人工化学物質だけでなく、海洋天然物質や起源未知物質が高濃度蓄積していたことが判明
・クラスター解析の結果、これら有機ハロゲン化合物の蓄積プロファイルは各鯨種の生息域や回遊パターンを反映している可能性を提示

【研究の概要】
本研究では、日本沿岸域に漂着したハクジラ類11種の脂皮試料を対象に、有機ハロゲン化合物の網羅的なスクリーニング分析とプロファイル解析を実施しました。その結果、300種を超える有機ハロゲン化合物(異性体)群の検出が明らかとなり、種特異的な蓄積パターンを示すことを突き止めました。なかでも、ハクジラ類の脂皮に蓄積していた特定の海洋天然物質が、個体の摂食・回遊履歴や生息環境を理解する上で有用な指標となり得ることを世界に先駆けて提示しました。この研究成果は、2025年2月14日に国際誌 「Environmental Science & Technology」 に掲載されました。

ハクジラ類は寿命が長く、海洋生態系の高次栄養段階に位置するため、食物連鎖を通して多様な化学物質に曝露されています。なかでも、ポリ塩化ビフェニル(PCBs)等の残留性有機汚染物質(POPs)による相当量の曝露が現在も継続しており、鯨類に対する健康リスクが懸念されます。北米における最近の調査では、既存POPsだけでなく、POPsと類似の物理化学特性や毒性を示す疑いのある人工汚染物質(POPs様物質)や海洋天然物質の曝露が数種のハクジラ類で確認されています。しかしながら、多種多様な有機ハロゲン化合物(人工汚染物質・海洋天然物質・起源未知物質)の蓄積濃度・組成パターンの種差とその要因については、ほとんど明らかにされていませんでした。そこで本研究では、愛媛大学の生物環境試料バンク(es-BANK)に凍結保存されているハクジラ11種の脂皮試料を活用し、GC/MSによる網羅分析とクラスター解析を実施することで、種特異的な化合物蓄積プロファイルの解明を試みました。その結果、脂皮試料から313種の有機ハロゲン化合物(異性体)の検出が明らかとなり、これらの蓄積濃度や組成パターンが各鯨種の生息域や深度さらには回遊経路の違いを反映している可能性が示されました。本研究で確立した解析手法は、海棲哺乳動物種における化学汚染の包括的な理解だけではなく、生息環境や生活史を紐解くうえでも有用なアプローチとなることが期待されます。

参考 URL1: https://doi.org/10.1021/acs.est.4c14352

論文情報

Comprehensive Screening of Anthropogenic and Natural Organohalogen Compounds in 11 Species of Toothed Whales Stranded along Japanese Coasts: Species-Specific Accumulation Profiles and Potential Indicators for Understanding Their Habitats,
Tomoya Sunouchi, Akitoshi Goto, Nguyen Minh Tue, Yuko Tajima, Tadasu K Yamada, Hisato Iwata, Shinsuke Tanabe and Tatsuya Kunisue,
Environmental Science & Technology, 59 (7), 3792-3804,
doi: 10.1021/acs.est.4c14352, 2025, (February 14).

助成金等

  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)基盤研究A(23H00533、24H00753)
  • 文部科学省 共同利用・共同研究拠点「化学汚染・沿岸環境研究拠点(LaMer)」

図表等

  • ハクジラ類における有機ハロゲン化合物の包括的なプロファイリング

    ハクジラ類における有機ハロゲン化合物の包括的なプロファイリング

    ハクジラ類11種から検出が確認された有機ハロゲン化合物の種特異的な蓄積プロファイルの概要図

    credit : 国末達也(愛媛大学)
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E-mail : kunisue.tatsuya.ew@ehime-u.ac.jp
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