偏極理論とらせん型境界条件を用いたトポロジカル数の計算法の考案

【研究のポイント】
・トポロジカル物質の解析に偏極理論を応用した。
・らせん型境界条件を用いて2次元系を1次元系として扱う方法を確立した。
・格子ゲージ理論と偏極理論との関係を明らかにした。

【研究の概要】
我々は、偏極理論と、すべての格子を1次元的にラベル付けするらせん型境界条件を用いて、2次元格子系のトポロジカル数を計算する方法を考案した。格子ゲージ理論に基づくトポロジカル数の計算方法と偏極理論との関係を考察し、それらの1次元表現を見出した。この議論の本質は、拡張された1次元系に磁束を挿入すると、その垂直方向に有効電流が生成されるという点である。この方法は、異なる次元におけるトポロジカル状態の統一的な理解に役立つだけでなく、コンピューターを用いた数値計算への応用にも有用である。

近年、トポロジカル物質に関する研究が盛んにおこなわれている。トポロジカル物質の代表的なものとしてはトポロジカル絶縁体があり、これは物質の内部では電気を通さないのに、表面ではスピン流と呼ばれる電気が流れる特異な絶縁体である。通常の絶縁体とトポロジカル絶縁体との違いを数学的に表現するとトポロジカル数というもので区別できる。トポロジーとは、例えば、取っ手のついたコーヒーカップを連続的に変形するとドーナツの形にできるのに対し、ボールやおせんべいのような穴のない形には変形できないことを「トポロジーが異なる」と表現し、このときの穴の数がトポロジカル数に相当する。この他にもトポロジカル超伝導体などのトポロジカル物質が存在する。
本研究では2次元の物質に関して、偏極理論とらせん型境界条件という考え方を用いてトポロジカル数を計算する方法を新たに考案した。偏極とは物質中における電子の分布の偏りを示す物理量であり、試料を切ったときの切り口に現れる情報を知ることができる。また、らせん型境界条件とは2次元格子をらせん状にして理論的に扱う考え方であり、これによって2次元系を1次元系の情報に落として単純化して扱うことができる。本研究はこれまで1次元格子系で議論されてきた偏極によるトポロジカル数の計算手法が2次元系に拡張できることを示したほか、素粒子論で用いられる格子ゲージ理論による計算手法との対応を明らかにしたという理論的な意義がある。また、この手法はトポロジカル物質をコンピューターを用いて大規模に解析する際の効率的な計算手法として応用できる。

参考 URL1: https://doi.org/10.1103/PhysRevB.110.075144

論文情報

Chern numbers in two-dimensional systems with spiral boundary conditions,
Masaaki Nakamura and Shohei Masuda,
Phys. Rev. B 110, 075144 (2024),
doi:10.1103/PhysRevB.110.075144, 23 August 2024

助成金等

  • JSPS科研費 JP20K03769

図表等

  • らせん型境界条件

    らせん型境界条件

    2次元格子系に対するらせん型境界条件

    credit : 中村正明
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