薬物相互作用に関する情報の国際的な統一に向けて

【研究のポイント】
・日本の医薬品コードであるYJコードを国際的な標準医薬品用語であるRxNormに対応させる手法を確立した。
・日本と海外の医薬品情報に関するデータの共有が促進される基盤を形成した。
・日本と海外の薬物相互作用に関する重症度分類の一致度は一様に低かった。
・薬物相互作用に関する重症度情報は国際的に一貫性を持つように調整される必要があることを示した。

【研究の概要】
日本の医薬品コードであるYJコードと国際的な標準医薬品用語であるRxNormを対応させることで、薬物相互作用(Drug-Drug Interaction; DDI)に関する国際的な情報を統合する研究を行いました。日本国内のDDI情報だけでは、重篤なDDIを見逃す可能性があるため、国際的なデータを統合して網羅性を高める必要があります。本研究では、YJコードをRxNormに対応させる手法を開発し、日本と海外のDDI情報を比較しました。その結果、それぞれのDDI情報に臨床的に重要なデータを追加し、一貫性を持つように調整される必要があることを示しました。この研究により、DDI情報を含めた医療関連のグローバルなデータの共有や分析の促進が期待されます。

薬物相互作用(Drug-Drug Interaction; DDI)は、複数の医薬品を併用した場合に薬効が減弱あるいは増強する現象を指し、患者に重大な健康リスクをもたらす可能性があります。医療現場ではDDIの関係にある医薬品を投与する場合に細心の注意を払いますが、日本国内のDDI情報だけでは重篤なDDIを見逃すリスクが指摘されています。そのため、各国のDDI情報を統合して網羅性を高めることが期待されていますが、国や地域ごとに医薬品を識別するコードが異なるため、国際的にDDIのデータを共有して分析することは困難な状況でした。そこで、日本と海外の医薬品コードを対応付け、国際的なデータ共有を可能にすることを目指しました。
本研究では、日本の医薬品コードであるYJコードを国際的な標準医薬品用語であるRxNormに対応させる手法を確立しました(図1)。これにより、日本国内の医薬品情報を他国の研究者や医療機関でも容易に利用できるようになり、国際的なデータ共有が促進される基盤を形成しました。また、日本と海外のDDI情報の比較(図2)を通じて、DDI重症度分類の一致度は一様に低いことが明らかとなり、それぞれのDDI情報に臨床的に不可欠なデータを追加する必要があることを示しました(図3)。DDIの重症度を設定するための国際的に合意された明確な基準が存在しないことからも、DDIに関する重症度情報は一貫性を持つように調整される必要があることを言及しました。
本研究の成果は、医療安全性の向上ならびに医薬品情報の国際的な統合と標準化に大きく貢献し、今後のDDIリスク評価の精緻化や国際的な医療データの一貫性の確保において重要な役割を果たすことが期待されます。

参考 URL1: https://academic.oup.com/jamia/article/31/7/1561/7676021

論文情報

Toward a unified understanding of drug-drug interactions: mapping Japanese drug codes to RxNorm concepts,
Kawakami Y, Matsuda T, Hidaka N, Tanaka M, Kimura E,
Journal of the American Medical Informatics Association, 2024, 31(7), 1561–1568,
DOI: 10.1093/jamia/ocae094, 2024 (May 17).

図表等

  • 【図1】日本と海外の医薬品を対応させる手法

    【図1】日本と海外の医薬品を対応させる手法

    日本と海外の医薬品を対応させる手法の概要図。(a)日本の医薬品コードであるYJコードと米国の医薬品コードであるNDC(National Drug Code)の対応表を抽出し、次にNDCに対応するRxNormに関するコード(RxNorm Concept Unique Identifiers; RxCUI)を取得することでYJコードとRxNormを対応させる。(b)RxCUIに対応する他の医薬品コードを取得して関連付ける手法を示している。

    credit : 川上幸伸、木村映善
    Usage Restriction : 使用許可を得てください

  • 【図2】日本と海外のDDI情報を比較する手法

    【図2】日本と海外のDDI情報を比較する手法

    日本と海外のDDI情報を比較する手法の概要図。(上)日本のDDI情報を抽出し、YJコードからRxNormに関するコード(RxNorm Concept Unique Identifiers; RxCUI)に変換する。(下)海外のDDI情報についても同様に医薬品コードをRxCUIに変換する。このように、全ての医薬品をRxNormに対応させて、日本と海外のDDI情報を比較する手法を示している。

    credit : 川上幸伸、木村映善
    Usage Restriction : 使用許可を得てください

  • 【図3】日本と海外のDDI重症度分類の一致度

    【図3】日本と海外のDDI重症度分類の一致度

    DDI重症度分類の一致度を表すヒートマップ図。縦軸と横軸は、各情報源の重症度分類を最高クラス(HC)、その他のクラス(OC)、情報なし(NI)に分類している。カラーバーの値はCohen's kappaによる一致度を表し、0.40-0.59は弱い一致、0.21-0.39は最小の一致、0.00-0.20および0.00未満は一致なしを示す。

    credit : 川上幸伸、木村映善
    Usage Restriction : 使用許可を得てください

問い合わせ先

氏名 : 川上 幸伸
電話 : 089-960-5695
E-mail : kawakami.yukinobu.jx@ehime-u.ac.jp
所属 : 愛媛大学医学部附属病院 薬剤部