アサガオの花の寿命を延ばす化合物を発見
転写因子を標的とした機能阻害化合物の選抜に成功
【研究のポイント】
・コムギ無細胞系を利用して構築したアサガオの花の老化を制御する転写因子EPH1とDNAとの相互作用検出系を利用して、EPH1とDNAとの相互作用を阻害する化合物Everlastin1とEverlastin2の取得に成功した。
・Everlastin1およびEverlastin2は、EPH1の二量体化を阻害することでEPH1とDNAとの相互作用を阻害していた。
・Everlastin1およびEverlastin2は、切り花にしたアサガオの花弁の老化を抑制し、花の寿命を約2倍に延長する効果を示した。
【研究の概要】
愛媛大学プロテオサイエンスセンター(以下、「PROS」)野澤 彰准教授および国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下、「NARO」)渋谷 健市博士らの研究グループは、コムギ無細胞系を利用した化合物スクリーニングにより、アサガオの花の寿命を制御する転写因子 EPHEMERAL1(EPH1)の標的DNA配列への結合を阻害する化合物Everlastin1およびEverlastin2の単離に成功しました。これらの化合物は、切り花にしたアサガオの花の寿命を約2倍に延長する効果を示すことが確認されたほか、EPH1の二量体化を阻害することで EPH1のDNA結合能を低下させ、生体内での機能を抑制していることが明らかになりました。EPH1の類縁タンパク質はユリなどの主要な切り花の老化にも関与していると考えられており、今回と同様のアプローチにより、これらの花についても寿命を延長する薬剤の開発が進むことが期待されます。
植物の花の寿命は、遺伝的にプログラムされた機構により制御されています。開花後一定の時間が経過すると、プログラム細胞死に関連する遺伝子の発現が誘導され、タンパク質や核酸などの細胞成分が分解されることで、花はしおれ枯れていきます。園芸分野では、花の寿命は観賞用植物の商品価値を左右する重要な形質であり、花を長持ちさせる技術の開発が望まれています。
我々は、これまでの研究において、アサガオの花の寿命を制御する転写因子EPHEMERAL1を特定しており(図1)、EPHEMERAL1の働きを抑える薬剤を見つけ出せれば、それを投与することで花の寿命を伸ばすことが可能になると考えられました。
本研究では、PROSが独自に開発してきたコムギ無細胞タンパク質合成システムと分子間相互作用解析技術であるAlphaScreenシステムを利用することで、EPH1とDNAとの結合を検出できるアッセイ系の構築に成功しました。そして、このアッセイ系を利用した化合物スクリーニングにより、EPH1とDNAとの結合を阻害する化合物Everlastin1とEverlastin2を単離することに成功しました(図2)。AlphaScreenシステムを利用した解析の結果、EPH1は二量体化することでDNAと結合することと、Everlastin1およびEverlastin2は、このEPH1の二量体化を阻害することでEPH1のDNAへの結合能を低下させていることが明らかになりました。Everlastin1およびEverlastin2を溶かした水にアサガオの切り花を浮かべると、DNAやタンパク質の分解が抑制され、花の寿命が約2倍に延長されることが確認されました(図3)。
転写因子は一般に合成および精製が難しく、薬剤の開発が非常に難しいタンパク質と考えられていました。今回の研究では、PROSで開発されたあらゆるタンパク質を高効率で合成可能なコムギ胚芽無細胞タンパク質合成系と未精製タンパク質を用いてタンパク質とDNAの結合を解析できるAlphaScreenシステムを用いることで、転写因子EPH1の合成と、EPH1とDNAとの結合解析系の構築に成功しました。本研究では、これらの技術を利用することで転写因子を標的とした化合物スクリーニングを行うことが可能となり、植物の転写因子の機能を阻害する化合物のスクリーニングに世界で初めて成功しました。本研究で使用した方法を利用することで、これまで「Undruggable(薬の開発に利用できない)」と考えられていた転写因子を標的とした薬剤開発が活性化されると期待されます。また、本研究で標的とした転写因子EPH1の類縁タンパク質はユリなどの主要な切り花の寿命にも関与していると考えられており、今回と同様のアプローチにより、花屋さんで販売されている色とりどりの花についても寿命を延長する薬剤の開発が進むことが期待されます。
参考 URL1: https://rdcu.be/dSlrG
論文情報
A chemical approach to extend flower longevity of Japanese morning glory via inhibition of master senescence regulator EPHEMERAL1,
Kenichi Shibuya, Akira Nozawa, Chikako Takahashi and Tatsuya Sawasaki,
Nature Plants, 10, 1377-1388,
doi:10.1038/s41477-024-01767-z, 2024.
助成金等
- 農林水産省委託プロジェクト研究「収益力向上のための研究開発」(JP15650941)
- 日本医療研究開発機構(AMED)創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業「コムギ無細胞系による構造解析に適した複合体タンパク質生産・調製技術と低分子抗体作製技術の創出」(JP21am0101086 支援番号1590、JP21am0101077 支援番号1144)
- 新学術領域研究「分子間相互作用に基づくシグナル伝達網解析のための無細胞プロテオーム技術の開発」(JP16H06579)
- 日本学術振興会(JSPS)科学研究費(21K05589、19H03218、19K05815)
図表等
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【図1】アサガオの花の寿命を制御するEPH1
アサガオの転写因子EPH1は花の開花後一定の時間が経過するとプログラム細胞死に関連する遺伝子の近傍に結合し、それらの遺伝子の発現を活性化する。プログラム細胞死関連の遺伝子が活性化されると花の細胞においてタンパク質や核酸の分解が誘導され、花は萎れてしまう。(アサガオの写真はNARO提供)
credit : Ehime University
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【図2】Everlastin1とEverlastin2の構造とそれらのEPH1とDNAとの結合阻害効果
AlphaScreenシステムを利用し、Everlastin1とEverlastin2のEPH1とDNAとの結合阻害効果を解析した。どちらも濃度を高くすると阻害効果が高まり、10µMでほぼ100%の阻害効果を示した。GATA3はEPH1とは異なる転写因子であり、Everlastin1とEverlastin2はGATA3とDNAとの結合は阻害しない。GSTはEverlastin1とEverlastin2がAlphaScreenのシステム自体を阻害している可能性を調べる対象実験に用いた。
credit : Ehime University
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【図3】Everlastin1のアサガオの花の寿命延長効果
Everlastin1を投与したアサガオの花では、Everlastin1によりEPH1の二量体化が阻害されEPH1は標的DNA配列に結合できなくなる。その結果、細胞死関連遺伝子の活性化が抑えられ花の寿命が延びることとなった。Everlastin1の投与によりアサガオの花の寿命は約2倍に延長された。(Everlastin1処理を行ったアサガオの写真はNARO提供)
credit : Ehime University
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問い合わせ先
氏名 : 野澤 彰
電話 : 089-927-8275
E-mail : nozawa.akira.my@ehime-u.ac.jp
所属 : 愛媛大学プロテオサイエンスセンター