塩素系難燃剤は鳥類の胚発生に影響する
塩素化パラフィンに曝露されたニワトリ初期胚の発生毒性の評価
【研究のポイント】
・短鎖塩素化パラフィン(SCCPs)のニワトリ初期胚に対する発生毒性を調べた。
・SCCPsの曝露により、孵化9日目の50%致死用量は3,100 ng/gであった。
・SCCPsの曝露は胚の発育遅延も誘発した。
・甲状腺ホルモンのシグナル伝達に関与する遺伝子の発現量低下が発育遅延の一因と考えられる。
・甲状腺ホルモンレベルの低下も発育遅延を誘発したと考えられる。
【研究の概要】
短鎖塩素化パラフィン(SCCPs)は難分解性の有機汚染物質であるが、鳥類における発生毒性についてはあまり研究されてこなかった。本研究では、卵殻のないニワトリ胚培養モデルを用いてSCCPs曝露の影響を詳細に調べた。SCCPsに曝露された胚は、生存率の低下、成長遅延、心血管障害を引き起こした。遺伝子発現と甲状腺ホルモンの解析から、SCCPsが甲状腺ホルモンのシグナル伝達を阻害し、発生毒性につながることが明らかになった。これらの知見は、SCCPsが鳥類の発生に及ぼす潜在的なリスクを明らかにするものである。
短鎖塩素化パラフィン(SCCPs)は、2017年にストックホルム条約により世界的に規制される残留性有機汚染物質(POPs)に分類されたが、鳥類胚における発生毒性については十分に研究されていない。本研究では、先行研究で開発した卵殻なし(ex-ovo)培養システムを用いて、ニワトリ胚(Gallus gallus domesticus)の初期発生を観察した。ハンバーガー・ハミルトン ステージ(HHS)1の胚をSCCPsに曝露(対照群、0.1% DMSO;SCCPs-L、200ng/g;SCCPs-M、2,000ng/g;SCCPs-H、20,000ng/g)し、孵卵3日目から9日目までの胚の発生を観察した。孵卵9日目の50%致死用量は3,100ng/gで、SCCPs-Mおよび-Hの曝露群で生存率の有意な低下が認められた。4日目から9日目にかけて、用量依存的な有意な体長減少も観察された。SCCPs-Hは、孵卵4日目に血管長と分岐数も減少させた。さらにSCCPs-Hは、孵卵4・5日目に心拍数を有意に減少させた。これらの知見は、ニワトリ胚発生の初期段階において、SCCPsが発生毒性および心血管毒性を惹起することを示唆する。胚発生に関連する遺伝子のmRNAの定量的PCR解析により、SLC16A10(トリヨードチロニン輸送体)のレベルがSCCPs-H群で減少し、胚の体長と有意な正の相関を示すことがわかった。甲状腺ホルモン受容体であるTHRAのレベルは、SCCPs-H群で有意に減少したが、脱ヨウ素酵素であるDIO3のレベルは有意に増加した。これらの結果は、SCCPs曝露が甲状腺ホルモンシグナル伝達経路を介して発生遅延を誘発することを示唆する。また血漿中の甲状腺ホルモンの分析により、胚の孵卵9日目にSCCPs-H群ではチロキシン(T4)レベルの有意な減少も認められた。結論として、SCCPsは、ニワトリ胚の初期段階において甲状腺機能を阻害することにより、発生毒性を誘発することが明らかとなった。
論文情報
Developmental toxicity of short-chain chlorinated paraffins on early-stage chicken embryos in a shell-less (ex-ovo) incubation system
Hao Chen, Kaori Chigusa, Kazuki Kanda, Rumi Tanoue, Mari Ochiai, Hisato Iwata,
Ecotoxicology and Environmental Safety, 276, 116304, 5 April 2024,
https://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2024.116304
助成金等
- JSPS科研費 基盤研究(S)26220103、JSPS科研費 挑戦的研究(萌芽)19K22912、文部科学省 共同利用・共同研究拠点「化学汚染・沿岸環境研究拠点(LaMer)」
図表等
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Chen et al Graphic Abstract
短鎖塩素化パラフィン(SCCPs)に曝露されたニワトリ初期胚の発生毒性の概要
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