月深部を解き明かす:ガーネットに富む月マントル?

月マントルを模擬した岩石試料の音速を高温高圧下で測定し、月深部にガーネットが存在することを示唆

愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)の研究者らは、月マントルを模擬したガーネットを多く含む岩石試料の音速を、放射光と超音波を用いた大容量プレス装置で測定することに成功した。この結果は、月深部にガーネットが大量に存在することを示唆しており、ガーネットの存在は月の形成、組成、内部ダイナミクスの理解に重要な意味を持つ。

現在の月は、中心に金属核があり、その上にカンラン石(Ol)や輝石(Px)などの鉱物からなるマントルが地殻下に広がる内部構造を持っていると考えられている(Wieczorek et al.,2006)。このような月の内部構造は、月探査で得られたサンプルや深部地震の記録の分析から推定されてきた(Weber et al.,2011)。豊富な文献があるにもかかわらず、月マントル深部にあるガーネット(Gt)の存在については、長年議論が続いている。ガーネットの存在について考えると、50年前に初めて提唱された極めて重要な疑問(Anderson, 1975)には、いまだに答えが出ていない。ガーネットを含む現実的な月マントル物質の音速は、月深部の地震波観測と適合しているのだろうか?
この疑問に答えるため、愛媛大学の研究者らはまず、地球深部ダイナミクス研究センターのマルチアンビル型高圧発生装置「ORANGE-2000」を用いて、月マントルを模擬したガーネットに富む岩石試料(Ol+Px+Gt)を高温高圧下で合成した。この試料を大型放射光施設SPring-8の高温高圧ビームラインBL04B1において、月深部と同様の圧力・温度条件下で音波の伝搬速度を測定する実験を行った。実験結果とモデリングを組み合わせることで、研究者らは、月マントルを模擬したガーネットを大量に含む試料の音速は、深さ740~1260kmの月深部の地震波および密度分布と一致すると結論づけた。さらに、ガーネットをほとんど含まない岩石組成では、これらの深さで観測された月のマントルの地震波速度と密度を説明することはできないと結論づけた。
これらの興味深い結果は、月の組成や形成(Jing et al.,2022)、内部温度、金属核や現在は存在しない月のダイナモなど、月とその内部の力学に大きな影響を与える。

参考 URL1: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012821X24002255?via%3Dihub

論文情報

Sound velocities in lunar mantle aggregates at simultaneous high pressures and temperatures: Implications for the presence of garnet in the deep lunar interior,
Marisa C. Wood, Steeve Gréaux, Yoshio Kono, Sho Kakizawa, Yuta Ishikawa, Sayako Inoué, Hideharu Kuwahara, Yuji Higo, Noriyoshi Tsujino, Tetsuo Irifune,
Earth and Planetary Science Letters, 641, 118792,
https://doi.org/10.1016/j.epsl.2024.118792, 2024 (September 1st).

助成金等

  • 科学研究費補助金 19H02002
  • 日本学術振興会特別研究員

図表等

  • 月マントル深部におけるガーネットに富む層

    月マントル深部におけるガーネットに富む層

    核-マントル境界の上にガーネットに富む層がある月内部の模式図と本研究で合成した月マントル試料の写真

    credit : 愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター
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