地球深部の高圧シリカ鉱物には水が入らない

マントル深部における含水SiO2スティショバイトの限られた安定性

【研究のポイント】
・マルチアンビル装置を用いた高温高圧その場X線観察実験から水飽和系におけるSiO2スティショバイトの格子体積変化を観察しました。
・SiO2スティショバイトの水の溶解に伴う大きな体積膨張は600℃以下でのみしか観察されず、それ以上の高温では水がほとんど溶解しないことが分かりました。
・SiO2スティショバイトが下部マントル最上部において安定相として1wt%以上の水を保持する可能性は低いことが明らかとなりました。

【研究の概要】
近年、下部マントルでの水輸送の担い手候補としてSiO2スティショバイトが注目されています。しかし、先行研究によって報告されている含水量や安定領域は見解が不一致なままでした。そこで我々は、マルチアンビル装置を用いた水飽和系でのX線その場観察実験を行い、高温高圧下での含水SiO2スティショバイトの安定性を調査しました。その結果、格子体積の過剰な膨張は600℃以下でのみ観察され、温度の上昇および時間経過によって急速に減少することを発見し、少なくとも下部マントルの平均温度では、SiO2スティショバイトが安定して1wt%以上の水を保持する可能性は低いことを明らかにしました。

沈み込み帯では海水と反応した海洋プレート内の名目上無水鉱物(NAMs)や含水鉱物によってマントル内部に水が輸送されます。そのため水を含む鉱物の安定領域や含水量を明らかにすることは、地球深部の水循環プロセスを理解する上で非常に重要です。地表を構成する地殻(大陸地殻・海洋地殻)に普遍的に含まれるSiO2鉱物は、地表では石英として安定ですが、上部マントルから下部マントルの幅広い温度圧力条件ではスティショバイトとして安定です。近年の研究で、Alを含まない純粋なスティショバイトに1wt%を大きく超える多量の水が保持されることが示され、下部マントルにおける主要な水輸送の担い手として期待されています。これは水飽和系では、スティショバイトの格子体積が水の溶解に伴い過剰に膨張すること(過剰体積)が観察されていることから示唆されています。しかし、よく制御された高温高圧下の水飽和条件下でその観察する技術がなかったため、過剰体積が見られる温度圧力条件は先行研究によって異なっており、含水スティショバイトの安定性は不明瞭でした。
そこで我々は、水飽和系におけるマルチアンビル装置を用いたその場X線観察のための実験手法を開発し、10-30 GPa・最高1300℃までのSiO2スティショバイトの格子体積を調査しました。実験の結果、加熱開始後に最初に結晶化した含水スティショバイトの体積膨張率は最大で3.8%でしたが、過剰体積は温度の上昇および時間経過に伴い急速に減少することが分かりました。そして700℃以上ではほぼ無水の値と等しくなりました。さらにその後降温しても、過剰体積は観察されませんでした。これらのことは、SiO2スティショバイトへの水の溶解は準安定的な現象である可能性を示しており、少なくとも下部マントル最上部ではSiO2スティショバイトは安定相として水輸送の担い手になる可能性は低いことが明らかとなりました。

参考 URL1: https://authors.elsevier.com/a/1j9ua,Ig4YxEt

論文情報

Limited stability of hydrous SiO2 stishovite in the deep mantle,
Goru Takaichi, Yu Nishihara, Kyoko N. Matsukage, Masayuki Nishi, Yuji Higo, Yoshinori Tange, Noriyoshi Tsujino, Sho Kakizawa,
Earth and Planetary Science Letters, Volume 640, 15 August 2024, 118790
https://doi.org/10.1016/j.epsl.2024.118790

助成金等

  • JSPS科研費 19H00723

図表等

  • 含水SiO<sub>2</sub>スティショバイトの脱水と格子体積変化

    含水SiO2スティショバイトの脱水と格子体積変化

    23万気圧で最高1300℃まで加熱した際の格子体積の変化。500℃で最初に晶出した結晶は多量の水を含み大きな体積を示したが、その後の加熱で不可逆的に脱水し無水スティショバイトと同等の体積を示した。

    credit : 高市 合流(愛媛大学)
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