新しい炎症制御機構の発見
MIB2は脱ユビキチン化酵素のCYLDを分解することで炎症を促進する
愛媛大学を主としたチームは、E3リガーゼMIB2が脱ユビキチン化酵素CYLDを分解することにより、炎症を促進することを見出した。また、CYLD遺伝子が欠損や点変異すると円柱種という腫瘍になることが知られていたが、点変異で円柱腫瘍が誘導される理由は不明であった。本研究において、904番目のプロリンがロイシンの点変異では、MIB2による分解が促進され、その結果CYLD欠損と同様の状況となり円柱腫瘍ができる可能性を示した。
NF-κBは、炎症性サイトカインなどの多様な刺激によって活性化され、種々の遺伝子発現を亢進させることで炎症や免疫応答、細胞増殖など様々な生命現象を調節する転写因子である。しかしながら、恒常的に活性化したNF-κBは自己免疫疾患やがんなどの様々な疾患に関与している事が報告されている。NF-κBは翻訳後修飾系の一種として知られるユビキチン化依存的なシグナル伝達経路であることが明らかになってきている。ユビキチンが複数つながったポリユビキチン鎖は、タンパク質の分解のみならず、タンパク質の活性化・転写調節など多様な様式でタンパク質の機能を制御する。CYLDに代表されるようなポリユビキチン鎖を切断する脱ユビキチン化酵素は、シグナル活性を負に制御することによりNF-κBの転写活性を調節している。一方で、CYLDタンパク質の分解がNF-κBシグナルの恒常的な活性化を引き起こすことが明らかとなっている。プロテアソームによるタンパク質分解にはユビキチン化する特異的なE3リガーゼが必要であるが、CYLDを分解誘導しNF-κBを活性化させるE3リガーゼは未同定であり、ポリユビキチン鎖依存的な新たな疾患メカニズムを解明していく上で重要である。
NF-κBシグナルにおいてCYLD分解誘導による抑制制御機構を解明するため、CYLDと相互作用するE3リガーゼのスクリーニングを行い、NF-κBシグナルへの関与報告のあったE3リガーゼMIB2を見出した。複数種類のヒトがん由来培養細胞を用いて、1)MIB2がユビキチン化を付加しCYLDを分解すること、2)MIB2がCYLDの分解によりNF-κBシグナルの活性化を誘導すること、3)MIB2ノックアウトマウスが関節炎抑制の表現形を示すことを明らかにした。最後に、遺伝性疾患の家族性円柱腫症の患者から見出されたCYLD変異体(P904L)は、MIB2により優先的に分解されることを発見し、これまで未解明だったCYLDの1アミノ酸置換変異による家族性円柱腫症発症機構のモデルを提示した。
論文情報
掲載誌:The journal of biological chemistry
題名:The E3 ubiquitin ligase MIB2 enhances inflammation by degrading the deubiquitinating enzyme CYLD(脱ユビキチン化酵素CYLDの分解によりE3リガーゼMIB2は炎症を促進する)
著者:Atsushi Uematsu, Kohki Kido, Hirotaka Takahashi, Chikako Takahashi, Yuta Yanagihara, Noritaka Saeki, Shuhei Yoshida, Masashi Maekawa, Mamoru Honda, Tsutomu Kai, Kouhei Shimizu, Shigeki Higashiyama, Yuuki Imai, Fuminori Tokunaga, Tatsuya Sawasaki
DOI:10.1074/jbc.RA119.010119
助成金等
- 日本医療研究開発機構(AMED)BINDS創薬等プラットフォーム事業19am0101077
- 文部科学省 新学術領域研究(研究領域提案型) JP25117719 JP16H06579
- JSPS科研費 JP15J03774 JP16K18570 JP16H04729 19H03218
- 武田科学振興財団
図表等
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MIB2はCYLDの分解により炎症を促進する
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