高効率でポリマーを合成できる新触媒の開発に成功!
ジアゾ酢酸エステルのC1重合のための新しいPd錯体開始剤系
ジアゾ酢酸エステルのC1重合のための2つの新しいPd錯体開始剤系が報告された。それらは、Pd(nq)2/borate (nq = naphthoquinone, borate = NaBPh4)と[Pd(cod)(Cl-nq)Cl/borate] [cod = 1,5-cyclooctadiene, Cl-nq = 2,3-dichloro-1,4-naphthoquinone]である。ジアゾ酢酸エステルの重合において、前者は高分子量のポリマーを高収率で与え、後者は立体構造が制御されたポリマーを与えた。
愛媛大学の研究グループは、ジアゾ酢酸エステルのC1重合において特徴的な活性を示す2つの新しいPd錯体開始剤系の開発に成功した。それらはどちらもPd、ナフトキノン(nq)、およびボラート(NaBPh4)から合成されるもので、一つは高分子量ポリマーを高収率で与えることができ、もう一つは立体構造の制御されたポリマーを与えることができる。今回報告された、これらの開始剤系によるジアゾ酢酸エステルのC1重合に関する詳細な研究結果は、今後のさらに高活性なPd錯体開始剤系の開発にとって、極めて有益な知見となるものである。
C1重合とは、炭素―炭素(C-C)結合を主鎖とするポリマーを“1炭素ユニット”から合成する手法のことであり、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンを始めとする工業的に重要な数多くのポリマーの合成手法として用いられているビニル重合と呼ばれる“2炭素ユニット”から主鎖を構築する手法とは対照的なものである。このC1重合の最大の特徴は、主鎖のすべての炭素に置換基が結合したポリマーが得られることであり、そのようなポリマーには独特の物性や機能性の発現が期待できるが、それらを従来のビニル重合で合成することは一般的には困難である。そのため、ここ数十年、C1重合に関する研究が注目を集めている。中でも、愛媛大学の井原栄治教授、下元浩晃講師らの研究グループは、2003年にPd錯体系を開始剤とする重合によって、ジアゾ酢酸エステルが主鎖のすべての炭素にアルコキシカルボニル基が結合したポリマーを与えるC1重合のモノマーとして有効であることを世界に先駆けて(ほぼ同時期に報告した中国グループとは独立に)報告して以来、この分野の研究をリードしてきた。このグループは、(NHC)Pd/borate系 [NHC = N-heterocyclic carbene, borate = NaBPh4] や p-allylPdCl/borate系といった、ジアゾ酢酸エステルの重合に有効なPd錯体開始剤系の開発に成功してきたものの、得られるポリマーの分子量、収率、および立体構造制御に関して、開始剤系の活性にはいまだに改善の余地がある。
今回の報告でこの研究グループは、Pd、ナフトキノン(nq)、およびボラート(NaBPh4)から成る新しい2つの開始剤系の開発に成功した。一つはPd(nq)2/borate系であり、従来報告されたPd開始剤系と比較して、より高い分子量のポリマーをより高い収率で与えることが特徴である。もう一つの開始剤系はPd(cod)(Cl-nq)Cl/borate系 [cod = 1,5-cyclooctadiene, Cl-nq = 2,3-dichloro-1,4-naphthoquinone]であり、収率は低いものの、立体構造の制御されたポリマーを与えることができる。これらの新しい開始剤系の活性に加えて、この研究グループは今回、高分解能なマススペクトルを用いたポリマーの末端構造の解析や、活性種の前駆体錯体であるPd(cod)(Cl-nq)ClのX線結晶構造解析といった、重合機構に関する重要な研究結果を報告している。
本論文に報告された結果は、ジアゾ酢酸エステルのC1重合に有効なPd錯体開始剤系の活性をさらに向上させるために、極めて重要な知見となるものである。
論文情報
掲載誌:Macromolecules
題名:Polymerization of Alkyl Diazoacetates Initiated by Pd(Naphthoquinone)/Borate Systems: Dual Role of Naphthoquinones as Oxidant and Anionic Ligand for Generating Active Pd(II) Species
[Pd(ナフトキノン)/ボラート系によるジアゾ酢酸エステルの重合:重合活性種であるPd II価錯体を発生させるための、ナフトキノンの酸化剤とアニオン性配位子としての二重の役割について]
著者:Hiroaki Shimomoto, Shohei Ichihara, Hinano Hayashi, Tomomichi Itoh, and Eiji Ihara
DOI:10.1021/acs.macromol.9b00857