骨髄腫の持つ多様性を克服しうる新規二重特異性抗体を開発
難治性腫瘍に対する新しいがん免疫療法としての応用にも期待
愛媛大学大学院医学系研究科 血液・免疫・感染症内科学講座の小西達矢大学院生、越智俊元講師、竹中克斗教授らの研究グループが、多発性骨髄腫の新たな治療手段となり得る新規遺伝子改変型抗体(Bridging-Bispecific T-cell Engager: B-BiTE) を開発しました。B-BiTEは、臨床現場で用いられる様々な抗体医薬品に結合させて使用できるだけでなく、さらに複数の免疫細胞を安全かつ強力に活性化できる新たな二重特異性抗体です。本研究では、多様性を持つ骨髄腫集団に対しても強力で持続的な治療効果を誘導できる可能性を示しました。これらの結果から、B-BiTEは骨髄腫を含めた難治性腫瘍に対する新たな治療戦略の進展に貢献できるのではと期待されます。
造血器腫瘍の一つである多発性骨髄腫は、難治性の疾患です。その理由として、多様性をもつ骨髄腫集団が治療に対して次々と耐性を獲得していく可能性が示されています。従来のモノクローナル抗体や二重特異性抗体などのがん免疫療法は有望な治療法として期待されていますが、体内の複数の免疫細胞を安全に活性化して治療効果を高めつつ、骨髄腫細胞が獲得する多様性に柔軟に対応する方法はこれまでにありませんでした。
本研究で開発されたBridging-Bispecific T-cell Engager (B-BiTE) は、モノクローナル抗体とT細胞とに結合できる新たな二重特異性抗体です。我々は、B-BiTEを用いた新規二重特異性抗体の有効性について、多発性骨髄腫を疾患モデルとした検証を行いました。まず、実臨床で使用可能なCD38に対するモノクローナル抗体薬であるダラツムマブ(Dar)、およびSLAMF7に対するモノクローナル抗体薬であるエロツズマブ(Elo)に、それぞれ個別にB-BiTEを結合させて、抗体/B-BiTE複合体を作製しました。次に、標的となる抗原 (CD38、SLAMF7) の発現が様々である複数の骨髄腫細胞株を用いた検証において、抗体/B-BiTE複合体の存在下では、ヒトT細胞とNK細胞が標的抗原を発現する腫瘍細胞に対して同時にかつ安全に活性化され、さらに抗体単独の場合と比較して抗腫瘍効果が増強することを示しました。
また、多様性をもつ骨髄腫細胞に対する治療モデルとして、CD38低発現/SLAMF7高発現の骨髄腫細胞株を免疫不全マウスに接種し、ヒト末梢血単核球を投与後にモノクローナル抗体または抗体/B-BiTE複合体を用いて治療を行いました。その結果、Dar/B-BiTE複合体とElo/B-BiTE複合体を用いて異なる抗原を標的とした連続治療を行うと、モノクローナル抗体のみ、Dar/B-BiTE単剤と比較して、持続した強力な抗腫瘍効果が得られることが示されました。
このようにB-BiTEを用いれば、様々な抗体医薬品から新たな二重特異性抗体をとても簡単に作り出すことが可能となります。そして実際の骨髄腫治療においても、複数の抗体/B-BiTE複合体による連続治療を行うことによって、強力で持続的な抗腫瘍効果を誘導できる可能性があります。また、市場に抗体医薬品が存在していれば、B-BiTEを用いて様々な抗体/B-BiTE複合体を作製できるため、多発性骨髄腫以外の造血器腫瘍や固形がんに対しても治療応用していくことで、次世代型抗体療法への展開も併せて期待できると考えられます。
論文情報
Reinforced anti-myeloma therapy via dual-lymphoid activation mediated by a panel of antibodies armed with Bridging-BiTE.
Tatsuya Konishi, Toshiki Ochi, Masaki Maruta, Kazushi Tanimoto, Yukihiro Miyazaki, Chika Iwamoto, Takashi Saitou, Takeshi Imamura, Masaki Yasukawa, Katsuto Takenaka
Blood, doi: 10.1182/blood.2022019082, 2023 (September 22).
助成金等
- JSPS 科研費 18K08331
- 武田科学振興財団 医学系研究奨励
- 先進医薬研究振興財団 血液医学分野 若手研究者助成
- AMED 革新的医療技術創出拠点プロジェクト (九州大学) 橋渡し研究戦略的推進プログラム (シーズA)
図表等
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B-BiTEの構造と治療コンセプト
B-BiTEは、ヒト免疫グロブリンFc領域に結合する一本鎖抗体 (scFv) と、ヒトCD3に結合するscFvとを連結して作製されています。一般的にモノクローナル抗体はヒトNK細胞を、BiTEはヒトT細胞を活性化して骨髄腫細胞を攻撃しますが、抗体にB-BiTEを結合させて抗体/B-BiTE複合体を作製すれば、ヒトNK細胞とT細胞を同時にかつ安全に活性化して、骨髄腫細胞を含めた腫瘍細胞を攻撃することが可能となります。
credit : This research was originally published in Blood. Konishi T, et al. Reinforced anti-myeloma therapy via dual-lymphoid activation mediated by a panel of antibodies armed with Bridging-BiTE. Blood. 2023. © by the American Society of Hematology.
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問い合わせ先
氏名 : 越智 俊元
電話 : 089-960-5296
E-mail : ochi.toshiki.eg@ehime-u.ac.jp
所属 : 愛媛大学医学部附属病院