有機リン系難燃剤は鳥類胚に奇形を誘発する

リン酸トリス(2-クロロイソプロピル)曝露によるニワトリ初期胚の発生毒性評価

【研究のポイント】
・TCIPPのニワトリ胚に対する発生毒性を、殻なし胚培養システムを用いて研究した。
・TCIPPへの曝露は生存率の低下と血管の発達障害を引き起こした。
・さらにTCIPP曝露は心拍数の低下と体節形成異常をもたらした。
・体節形成異常はTCIPP曝露胚の死亡原因となった可能性がある。

【研究の概要】
リン酸トリス(2-クロロイソプロピル)(TCIPP)は有機リン系難燃剤で、環境中や鳥類の卵・羽毛・肝臓から検出される。鳥類胚は化学物質に敏感であるが、TCIPPの毒性影響の詳細については知られていない。本研究では、ニワトリの初期胚でTCIPPの毒性を調べるために殻なし培養システムを使用した。TCIPP曝露は生存率の低下、成長抑制、血管伸長と赤血球産生の阻害、心拍数の低下、体節形成異常を引き起こした。これらの結果から、TCIPP曝露が鳥類胚の発生に対して毒性をもたらすことが示唆された。

リン酸トリス(2-クロロイソプロピル)(TCIPP)は有機リン系難燃剤の一種で、環境中や鳥類の卵・羽毛・肝臓から検出される。発生初期の鳥類胚は化学物質曝露に対して敏感であることが知られているが、TCIPPが鳥類の胚発生に与える影響に関する知見は限定されている。本研究では、殻なし胚培養システムを使用して、ニワトリ(Gallus gallus domesticus)の初期胚におけるTCIPPの毒性を調査した。
ニワトリ受精卵の培養0日目に、50 nmol TCIPP/gまたは500 nmol TCIPP/g、対照群としてジメチルスルホキシド(DMSO)に曝露した。培養3~9日目に胚を観察するとともに、4日目の胚を対象に、いくつかの遺伝子の発現レベルを測定した。
TCIPPを曝露した両群の生存率は有意に低下した。画像解析の結果、TCIPPを投与した両群で、体長、頭部と嘴の長さ、眼球直径、前肢と後肢の長さが有意に減少した。さらにTCIPP曝露は胚外血管の伸長と赤血球の産生を有意に阻害した。心拍数はTCIPP投与量に依存して減少し、特に4-7日目に顕著であった。TCIPP曝露群では、体節の湾曲が4-6日目に有意に増加し、非対称な体節形成を誘導した。体節角とFGF8発現量の間に有意な相関が見られたことから、TCIPP曝露はFGFシグナル伝達経路の変化を通じて体節形成に影響を与えることが示唆された。
以上の結果から、TCIPP曝露は鳥類胚の血管形成・心機能・体節の形成を含む発生に対する毒性影響が明らかになった。

参考 URL: https://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2023.115445

論文情報

Developmental toxicity in early chicken embryos on exposure to an organophosphorus flame retardant, tris(2-chloroisopropyl) phosphate
Kaori Chigusa, Kazuki Kanda, Hisato Iwata, Ecotoxicology and Environmental Safety, 264, 115445, 1 October 2023, https://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2023.115445

助成金等

  • JSPS 科研費 基盤研究(S)26220103
  • JSPS 科研費 挑戦的研究(萌芽)19K22912
  • 文部科学省 共同利用・共同研究拠点「化学汚染・沿岸環境研究拠点(LaMer)」

図表等

  • Chigusa et al Graphic Abstract

    Chigusa et al Graphic Abstract

    殻なし胚培養システムを用いたリン酸トリス(2-クロロイソプロピル)曝露によるニワトリ初期胚の発生毒性の概要

    credit : 愛媛大学沿岸環境科学研究センター(CMES)
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