有機ハロゲン化合物汚染がバルト海産タイセイヨウサケの健康に影響

【研究のポイント】
・バルト海のタイセイヨウサケ(Salmo salar)の有機ハロゲン化合物、トランスクリプトーム、プロテオーム、酸化ストレスの関連を分析した。
・サケの分子反応には、サケの起源(野生または孵化場飼育)よりも摂餌域(バルト海主流域、ボスニア海、フィンランド湾)が大きく影響する。
・サケのプロテオームとトランスクリプトームは環境汚染物質と酸化ストレスの影響を受けている。

【研究の概要】
本研究では、バルト海のタイセイヨウサケ(Salmo salar)の起源(野生または孵化場飼育)、摂餌域(バルト海主流域、ボスニア海、フィンランド湾)、有機ハロゲン化合物(OHC)濃度がサケの肝臓プロテオーム(タンパク質発現の総体)、トランスクリプトーム(RNA発現の総体)、酸化ストレスマーカーにどのように影響するのかを調べました。その結果、バルト海のサケの肝臓プロテオームは、トランスクリプトームと連動して、その起源(野生か孵化場飼育か)よりもむしろ、摂餌域におけるOHC濃度と酸化ストレスレベルの影響をより強く受けていることが示唆されました。

バルト海のタイセイヨウサケ(Salmo salar)は、野生魚と孵化場飼育魚の両方で構成されている。これらのサケは餌を求めて回遊する際、バルト海の様々な海域を回遊し、有機ハロゲン化合物(OHC)への曝露など、様々な環境ストレスに曝される。
本研究では、サケの起源(野生または孵化場飼育)、摂餌域(バルト海主流域、ボスニア海、フィンランド湾)、OHC濃度がサケの肝臓プロテオーム(タンパク質発現の総体)、トランスクリプトーム(RNA発現の総体)、酸化ストレスマーカーにどのように影響するのかを調べることを目的とした。
我々は、同じサケ個体からOHC濃度、トランスクリプトーム、プロテオーム、酸化ストレスマーカーを測定する多成分解析をおこなった。このアプローチにより、サケの異なるグループ間におけるトランスクリプトーム・プロテオームの変動に最も大きく寄与している主な要因(摂餌域、OHC濃度、酸化ストレスなど)を突き止めることができた。
野生サケと孵化場飼育サケを比較したところ、異物代謝とアミノ酸代謝に関連する経路に差がみられた。さらに、摂餌域の異なるサケを比較したところ、アミノ酸と炭水化物の代謝経路に顕著な違いが認められた。これらの経路の一部は、ポリ塩化ビフェニル(PCB)濃度と相関関係を示した。
多成分解析の結果、バルト海のサケの肝臓プロテオームは、トランスクリプトームと連動して、その起源(野生か孵化場飼育か)よりもむしろ、摂餌域におけるOHC濃度と酸化ストレスレベルの影響をより強く受けていることが示唆された。

参考 URL: https://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2023.115424

論文情報

Multi-level assessment of the origin, feeding area and organohalogen contamination on salmon from the Baltic Sea
Mirella Kanerva, Nguyen Minh Tue, Tatsuya Kunisue, Kristiina AM Vuori, Hisato Iwata, Ecotoxicology and Environmental Safety, 264, 115424, 1 October 2023, https://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2023.115424

助成金等

  • JSPS 科研費 基盤研究(S)26220103
  • JSPS 科研費 基盤研究(A)19H01150
  • 文部科学省 共同利用・共同研究拠点「化学汚染・沿岸環境研究拠点(LaMer)」

図表等

  • 有機ハロゲン化

    有機ハロゲン化

    credit : 岩田 久人、愛媛大学沿岸環境科学研究センター(CMES)
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