環境汚染物質によるアザラシの内分泌機能かく乱の評価

環境汚染物質の構造的特性とコンピューターシミュレーションからアザラシの内分泌系への影響を予測

【研究のポイント】
・試験に供した多くのビスフェノール類と水酸化ポリ塩化ビフェニル類は、試験管内でバイカルアザラシのエストロゲン受容体を活性化した。
・これら環境汚染物質とバイカルアザラシエストロゲン受容体の結合のコンピューターシミュレーションは、試験管内で実験したエストロゲン受容体の活性化を部分的に説明した。
・コンピューターシミュレーション解析結果と環境汚染物質の構造的特性(分子記述子)組み合わせたQSARモデルは、試験管内での実験結果をよく予測した。

【研究の概要】
本研究では、バイカルアザラシ(Pusa sibirica)のエストロゲン受容体αおよびβのサブタイプ(bsERαおよびbsERβ)を活性化するビスフェノール類(BPs)および水酸化ポリ塩化ビフェニル類(OH-PCBs)の能力を、試験管内実験(インビトロ)およびコンピューター上での実験(インシリコ)の両方の方法を用いて評価しました。その結果、コンピューターによるシミュレーション結果と環境汚染物質の構造的特性(分子記述子)を説明変数とし、試験管内実験のデータを目的変数として用いることで、両bsERサブタイプの定量的構造活性相関(QSAR)モデルの開発に成功しました。

本研究では、バイカルアザラシ(Pusa sibirica)のエストロゲン受容体αおよびβのサブタイプ(bsERαおよびbsERβ)を活性化するビスフェノール類(BPs)および水酸化ポリ塩化ビフェニル類(OH-PCBs)の能力を、試験管内実験(インビトロ)およびコンピューター上での実験(インシリコ)の両方の方法を用いて評価しました。
試験管内での実験では、ほとんどのBPsとOH-PCBsが各bsERサブタイプに対してエストロゲン様活性を示すことが明らかになりました。試験されたBPsの中では、ビスフェノールAFが最も強いエストロゲン様活性を示しました。同様に、4′-OH-CB50と4′-OH-CB30は、それぞれbsERαとbsERβに対して、試験したOH-PCBsの中で最も強い活性を示しました。
さらに、これらの環境汚染物質がどのようにbsERに結合するかを調べるために、コンピューターによるドッキング・シミュレーションを実施しました。このコンピューターによるシミュレーション結果と環境汚染物質の構造的特性(分子記述子)を説明変数とし、試験管内実験のデータを目的変数として用いることで、両bsERサブタイプの定量的構造活性相関(QSAR)モデルを開発しました。これらのモデルは、bsERαとbsERβの両方について活性化する化合物と活性化しない化合物を高い精度で区別し、各環境汚染物質の試験管内実験での活性化能を正確に予測しました。また、QSARモデルから、環境汚染物質の活性化能に影響を与える重要な因子を抽出することに成功しました。
さらに、同様の方法でマウスERの活性化能を予測するQSARモデルの構築にも成功し、種特異的な反応に関係なく、本手法の汎用性を実証しました。

参考 URL1: https://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2023.115495

論文情報

In silico simulations and molecular descriptors to predict in vitro transactivation potencies of Baikal seal estrogen receptors by environmental contaminants.
Hoa Thanh Nguyen, Yuka Yoshinouchi, Masashi Hirano, Kei Nomiyama, Haruhiko Nakata, Eun-Young Kim, Hisato Iwata, Ecotoxicology and Environmental Safety, 265, 115495, 15 October 2023, https://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2023.115495

助成金等

  • JSPS 科研費 基盤研究(S)26220103
  • JSPS 科研費 基盤研究(A)19H01150
  • 文部科学省 共同利用・共同研究拠点「化学汚染・沿岸環境研究拠点(LaMer)」

図表等

  • Hoa et al Graphic Abstract

    Hoa et al Graphic Abstract

    環境汚染物質によるバイカルアザラシのエストロゲン受容体の活性化能を予測するモデルの開発

    credit : 愛媛大学沿岸環境科学研究センター(CMES)
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問い合わせ先

氏名 : 岩田 久人
電話 : 089-927-8172
E-mail : iwata.hisato.mz@ehime-u.ac.jp
所属 : 沿岸環境科学研究センター