反芳香族化合物における置換基効果の実証

【研究のポイント】
●多様性のある安定な反芳香族化合物(homoHPHAC+)の合成法を開発
●電子供与〜吸引性置換基を有するhomoHPHAC+のグローバル反芳香族性ならびに芳香族性に及ぼす置換基効果の解明

【研究の概要】
愛媛大学大学院理工学研究科の髙瀬雅祥准教授、宇野英満教授らの研究グループは、同グループが開発に成功している反芳香族性を示す環拡張HPHAC (homoHPHAC) の置換基効果について検証を行いました。芳香族化合物における置換基効果は、反応速度や選択性、また化合物そのものの酸化・還元電位や吸収・発光スペクトルに及ぼす影響など、様々な化合物に対して詳細に検討されています。たとえば有機化合物を電子材料として用いるためには、適切な置換基を適切な位置に導入することが重要になっています。その一方、反芳香族化合物に関する同様の研究例はほとんどありません。同グループではこれまでに、ヘキサピロロヘキサアザコロネン (HPHAC) に関する研究を行い、多段階の安定な酸化還元特性や大環状共役にもとづいたグローバル芳香族性の発現などの性質を明らかにしてきました。さらにHPHACの環拡張類縁体であるhomoHPHACが、安定で強い反芳香族性を示す珍しい化合物であることを報告しています。本研究では、電子供与性〜電子吸引性をもつ置換基を導入したhomoHPHACの誘導体が新たに合成され、構造、光学、酸化還元、磁気的性質、芳香族性などに及ぼす影響が明らかにされました。
研究成果は、2023年6月6日にイギリス王立化学会誌 「Chemical Science」 の電子版に掲載されました。

環内に4n+2個のπ電子を持つ平面の環状共役化合物は芳香族化合物として知られています。一般に安定な化合物であることから、我々の身の回りに多く存在します。一方4n個のπ電子を持つ反芳香族化合物は、従来から不安定であると考えられてきたため、安定な反芳香族化合物の創製が有機化学分野における挑戦的な研究課題の一つとなっています。このような背景から、近年、安定で明確に反芳香族性を有する化合物の合成、単離、物性解明に関する研究がいくつか報告されています。一般に反芳香族化合物は、芳香族化合物と比べてHOMO-LUMOギャップが狭いため、置換基の影響を受けやすいと考えられます。しかし、反芳香族化合物における置換基効果を系統的に検討した研究例はこれまでありませんでした。
本研究グループでは、ピロールを用いて含窒素多環式芳香族化合物の一つである、ヘキサピロロヘキサアザコロネン(HPHAC)の合成とその物性解明に関する研究が行われてきました。さらにそのπ拡張類縁体であるhomoHPHACが、モノカチオンとしてグローバル反芳香族性を示し、トリカチオンとしてグローバル芳香族性を示す事などを報告しています。今回の研究では、フリーデルクラフツ型の分子内縮合反応を用いてhomoHPHACを合成する手法が新たに開発され、電子供与性〜電子吸引性の置換基が導入された一連の化合物が合成されました。構造、光学、酸化還元、反芳香族(芳香族)特性に対する置換基の影響が実験的に明らかにされました。計算機化学を用いた考察と併せて、反芳香族性(モノカチオン)および芳香族性(トリカチオン)共に電子吸引性の置換基を有する化合物においてもっとも強くなることが示されました。
環境負荷の低減、機能制御の多様性などの観点から有機化合物をエレクトロニクス材料に用いようとする様々なアプローチが検討されています。本質的に高いHOMO、低いLUMOを有する反芳香族化合物に置換基を導入することで電子物性を制御しようとする試みは、分子材料の新しい設計指針を与えることが期待されます。

参考 URL: https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2023/sc/d2sc07037e

論文情報

Substituent Effects on Paratropicity and Diatropicity in π-Extended Hexapyrrolohexaazacoronene,
(π拡張ヘキサピロロヘキサアザコロネンの常磁性、反磁性項に及ぼす置換基効果)
Masayoshi Takase, Toranosuke Takata, Kosuke Oki, Shigeki Mori, and Hidemitsu Uno,
Chemical Science, 2023, 14, 7036-7043.
DOI: 10.1039/D2SC07037E (June 06, 2023)

助成金等

図表等

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    反芳香族化合物における置換基効果の実証

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