過去35,000年間における黒潮の流路、流速と流量の変化

【研究のポイント】
・海洋モデルにより、北赤道海流の強化に伴い、最終氷期最盛期の黒潮は現在のものより強かったことを示した。
・最終氷期最盛期における黒潮続流の南下は、経度によって異なるが、その範囲は0.5〜3.5°であった。
・モデル結果から黒潮の強度の指標として水温の鉛直勾配よりその水平勾配はもっと適切であることを示した。

最終氷期から現代まで、気候変動に伴い大きな海水準変化が起こった。観測データから、最終氷期最盛期(約21,000年前)には現在より130-140 mの海面低下があったことが報告されている。最終氷期最盛期以後、海面は急激に上昇し、6千年前頃に現在の海水準に達した。また、最終氷期最盛期に偏西風が南下したことがいくつかの古気候モデルの結果に見られている。
最終氷期以後の黒潮の変遷については、観測データからの推測はあるものの、時間と空間の制約があるため、不明な点が多く残っている。数値モデルは観測データの空間解像度の不足を解消できるが、計算資源の制限からこれまでの多くのモデルでは計算範囲を東シナ海と日本南岸に限定して黒潮の変遷を調べている。その結果、黒潮に密接に関連する北赤道海流と黒潮続流の変遷を十分に理解せず黒潮の変遷を議論しており、黒潮の変遷のメカニズムを局所的に捉えがちである。また、古気候モデリング相互比較プロジェクト(PMIP)の大気海洋結合モデルは、全球海洋をカバーしているが、モデルの空間解像度が粗いため、中規模渦や黒潮流域を精度よく表現することができていない。
西向きに流れる北赤道海流はフィリピン沖で北向きの黒潮と南向きのミンダナオ海流に分岐する(図1a)。北赤道海流の流量だけではなく、その分岐点の位置(緯度)も黒潮とミンダナオ海流の流量を左右する。しかしながら、既存の古海洋モデリング研究では、北赤道海流の流量を議論するものはあるが、この分岐点の位置(緯度)の変化についてはほとんど触れていなかった。したがって、最終氷期からの海水準変動と気候変動の複合的影響によって北赤道海流の強さと分岐点の位置がどのように変化してきたか、そしてこれらの変化が黒潮と黒潮続流の変化にどのように関連しているのかを検討する必要がある。
本研究では、中規模渦を解像できる水平解像度1/12度で北太平洋全体と南太平洋の一部を表現し、海水準の変化を考慮した地形を利用した海洋循環モデルを構築した(図1b)。モデルの駆動力と初期条件は全球古気候モデルの結果を利用した。黒潮と北赤道海流の変遷を知るために、古気候モデル(MIRCO4m)の3万5千年前、3万年前、最終氷期最盛期、6千年前、産業革命前という5つの年代の結果を駆動条件として高解像度海洋モデルを実行し、黒潮と北赤道海流の長期変動特性を明らかにした。
黒潮流軸は、黒潮に沿った最大流速で定義される(図1d, Ambe et al, 2004)。5つの年代の黒潮流軸において、6千年前と産業革命前の黒潮はほぼ同じ流路を示し、また、最終氷期の三つの年代(3万5千年前、3万年前、最終氷期最盛期)の黒潮もほぼ同じ流路を示した。5つの年代の黒潮を比較すると、最終氷期最盛期の黒潮は東シナ海のトカラ海峡の手前で最も南の流路を取っていた。また、日本の南東沖では最終氷期の黒潮は小さな蛇行を伴い、北上していた。黒潮続流では、最終氷期には南下していたが、その範囲は0.5〜3.5°であった。最終氷期の黒潮続流の南下は、風応力の渦度がゼロになる位置の南下に関連していた。そして、黒潮の表層流速は6千年前と産業革命前には弱く0.9m/s程度であったが、最終氷期には強く約1.4m/sに達した。黒潮の流速の大きさについて、古海洋学でよく用いられる指標である水温の鉛直勾配より、水温の水平勾配の方が実際の流速変化に合うことを海洋循環モデルの結果から示した。

引用文献
Ambe, D., Imawaki, S., Uchida, H., & Ichikawa, K. (2004). Estimating the Kuroshio Axis South of Japan Using Combination of Satellite Altimetry and Drifting Buoys. Journal of Oceanography, 60(2), 375–382.

参考 URL1: https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1029/2021GL097250

論文情報

Changes in the Kuroshio path, surface velocity and transport during the last 35,000 years, Haiyan Yang, Xinyu Guo, Yasumasa Miyazawa, Sergey M. Varlamov, Ayako Abe-Ouchi, Wing-Le Chan. Geophysical Research Letters, 49, e2021GL097250. https://doi.org/10.1029/2021GL097250 (February 28).

助成金等

  • JSPS科研費 17H02959, 17H06104, 17H06323

図表等

  • モデル水深と黒潮流軸

    モデル水深と黒潮流軸

    (a) 北西太平洋の海底地形(網掛け色、単位:m)と海洋循環(半透明青矢印)図。赤線は表S2の輸送量計算に使用した範囲を示す。NEC, NECC, MC, KC, KEはそれぞれ北赤道海流、北赤道反流、ミンダナオ海流、黒潮、黒潮続流を意味する。(b)モデルの領域と海底地形。色は水深を示す(単位:m)。(c) 北西太平洋の年平均表面流(0-100m, 単位:m/s)。網掛けは流速が0.1m/sより速い海域を示す。(d) 5つの年代における黒潮流軸。灰色の点線は東シナ海の水深、その他の点線はKEの北側を示す。赤線は速度と水温を確認するための断面を示す。黒丸(1〜8)は先行研究で報告された堆積物コアーの場所を示す。

    credit : 郭 新宇 (愛媛大学)
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