魚類への毒性に基づく排水中の臭素系ダイオキシン類のリスク管理

ミックスハロゲン化ダイオキシンの中にはダイオキシン(TCDD)よりも強い毒性を示すものも

【研究のポイント】
・初期生活段階のメダカに対する臭素系ダイオキシン類の毒性を評価した。
・2,3,7,8位にハロゲンが置換したジベンゾフランはダイオキシン様化合物による典型的な影響を引き起こした。
・置換したハロゲンの数に依存して卵への取り込みは減少するため,リスク評価の際には各化合物の相対活性に加え,取り込み率も考慮する必要がある。
・ミックスハロゲン化ダイオキシンの中にはTCDDよりも強い毒性を有するものが存在するため,それらの排出量および環境中での挙動に関する調査が必要である。

【研究の概要】
愛媛大学沿岸環境科学研究センターの仲山 慶講師らの研究グループは,国立環境研究所および日本薬科大学との共同研究により,初期生活段階のメダカを対象に臭素系ダイオキシン類の毒性を評価し,各異性体の相対活性を明らかにしました。
2,3,7,8位に臭素あるいは臭素および塩素が置換したジベンゾフランを胚期のメダカに曝露したところ,ダイオキシン様化合物の曝露によって生じる典型的な症状が観察されました。このことから,2,3,7,8位に置換するハロゲンが塩素でも臭素でも類似の毒性影響を引き起こすことが示されました。また,被験物質の卵への取り込み率は,各化合物のオクタノール/水分配係数(log Kow)が大きくなるに従って著しく低下することが明らかとなり,取り込み率を考慮したリスク評価の重要性を示しました。さらに,一部のミックスハロゲン化ダイオキシンはTCDDよりも強い毒性を有することを明らかにしました。ミックスハロゲン化ダイオキシンのモニタリングは十分に実施されているとは言えないため,今後それらの排出量や環境中での挙動を明らかにする必要があります。
本研究の成果は,2022年10月26日に国際科学誌「Ecotoxicology and Environmental Safety」に掲載されました。

臭素系ダイオキシン類は,塩素系ダイオキシン類の一部またはすべての塩素が臭素に置換した類縁化合物です。臭素系ダイオキシン類のうちpolybrominated dibenzo-p-dioxin(PBDDs)やpolybrominated dibenzofuran(PBDFs)は臭素系難燃剤に不純物として含まれるほか,臭素系難燃剤を含む製品の燃焼過程において非意図的に生成することが知られています。我々が実施したモニタリング調査で,臭素系難燃剤取扱施設やプラスチックリサイクル施設,産業廃棄物最終処分場の排水が,PBDDsやPBDFsの主な排出源となっていることを報告しています。
ダイオキシン類のリスク管理には,各異性体の毒性等価係数(TEF)に濃度を乗じた毒性等量(TEQ)の総和が用いられることが一般的です。臭素系ダイオキシン類の化学特性が塩素系ダイオキシン類のそれと似ていることから,塩素系ダイオキシン類のTEFを,ハロゲンの置換位置が同じ臭素系ダイオキシン類に適用されています。しかし,一部の化合物では例え置換位置が同じであっても,塩素と臭素でその相対活性が顕著に異なることも報告されており,臭素系ダイオキシン類独自のTEFを決める必要があると言われています。とくに魚類においては,臭素系ダイオキシン類の相対活性はニジマスの胚を対象にした研究でしか評価されておらず,魚類のTEFを決定するための十分な情報が得られていません。そこで,本研究では,以下の目的を達成するために,初期生活段階のメダカを対象に臭素系ダイオキシン類の毒性を評価しました。
1.ミックスハロゲン化ダイオキシンを含む臭素系ダイオキシン類のin vivoでの相対活性を評価する
2.被験物質の曝露水中の濃度および卵内の濃度に基づく相対活性をそれぞれ求め,各化合物の取り込み率を考慮したリスク評価を実現する
2,3,7,8位に臭素あるいは臭素および塩素が置換したジベンゾフランを胚期のメダカに曝露したところ,”blue-sac disease”と呼ばれるダイオキシン様化合物の曝露によって引き起こされる典型的な症状が観察されました。一方で,非2,3,7,8体のダイオキシンおよびジベンゾフランは極端に高濃度の曝露でも外観から判断出来る悪影響は及ぼしませんでした。これらの結果は,塩素系ダイオキシン類で観察されるものと一致していたことから,臭素系ダイオキシン類の曝露によって生じる表現型の影響は,塩素系ダイオキシン類と共通の作用機序で生じると考えられました。
また,本研究では被験物質の曝露水中濃度と卵内の濃度をそれぞれ測定し,その濃度比から各化合物の卵への取り込み率を求めました。その結果,各化合物のオクタノール/水分配係数(log Kow)が大きくなるに従って取り込み率は著しく低下することを示しました。このことは,水から臭素系ダイオキシン類を取り込む生物においては,従来法による各化合物の相対活性のみを用いたリスク評価では過大評価になる可能性があるため,取り込み率を加味した評価が重要であることを示しています。
さらに,ミックスハロゲン化ダイオキシンである2-chloro-3,7,8-tribromodibenzofuranは2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)よりも4倍程度強い毒性を有することを明らかにしました。ミックスハロゲン化ダイオキシンのモニタリングは十分実施されているとは言えないため,今後それらの排出量や環境中での挙動を明らかにする必要があります。
今後,本研究で求められた相対活性値が,水圏環境における臭素系ダイオキシン類のリスク管理において参照されることが期待されます。

参考 URL1: https://doi.org/10.1016/j.ecoenv.2022.114227

論文情報

Suzuki G, Matsukami H, Michinaka C, Hashimoto S, Nakayama K, Sakai SI. 2021. Emission of dioxin-like compounds and flame retardants from commercial facilities handling deca-BDE and their downstream sewage treatment plants. Environmental Science & Technology 55: 2324–2335. https://doi.org/10.1021/acs.est.0c06359

助成金等

  • 環境研究総合推進費(no. 5-1705: JPMEERF20175005)

図表等

  • 排水に含まれる臭素系ダイオキシン類

    排水に含まれる臭素系ダイオキシン類

    難燃剤取扱施設等の排水に含まれる臭素系ダイオキシン類のうち,2,3,7,8位がハロゲンに置換されたものは,初期発生段階のメダカに”blue-sac disease”と呼ばれるダイオキシン様化合物による典型的な影響を及ぼします。

    credit : 仲山 慶(愛媛大学
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  • 臭素系ダイオキシン類の用量応答曲線

    臭素系ダイオキシン類の用量応答曲線

    TCDD(赤線)または各臭素系ダイオキシン類の曝露濃度と受精後28日時点での死亡率との関係。2,3,7,8位がハロゲンに置換した化合物では,四塩素(TCDD)や四臭素(TeBDF)よりも,一塩素三臭素の方が強い毒性を示した。

    credit : 仲山 慶(愛媛大学)
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問い合わせ先

氏名 : 仲山 慶
電話 : 089-927-8132
E-mail : kei_n@ehime-u.ac.jp
所属 : 沿岸環境科学研究センター