下部マントル最上部に玄武岩質の物質
超高圧高温実験によって、地球マントルの重要構成鉱物の一つであるカルシウムペロブスカイトの精密な弾性波速度測定に成功しました。その結果、沈み込むプレートの海洋性地殻は、上部・下部マントルの境界である深さ660㎞の不連続面上部に溜まることが示唆されました。
沈み込む海洋プレートは、マントル物質が部分的に融けて固まった玄武岩質の海洋地殻と、融け残りの岩石であるハルツバージャイト岩からできていると考えられています。海洋プレートはマントル中の深さ660 km付近の地震学的な不連続面(660 km不連続面)付近まで沈み込むことが知られていますが、その先の挙動に関しては十分に解明されていません。一部のプレートは660 km不連続面付近に滞留し「スタグナントスラブ」(または「メガリス」)と称される巨大な塊を形成すると考えられるのに対し、他のプレートは660 km不連続面付近で水平に横たわる、あるいは660 km不連続面を突破して地球中心の核まで到達することが、地震波を利用したトモグラフィー(CT)により予想されています。
このようなプレートの挙動を追跡するためには、プレートを構成する高圧型鉱物の弾性波(=地震波)速度を測定し、地球内部の地震波速度の観測データと比較検討する必要があります。これまでにプレートやマントルを構成する高圧型鉱物の弾性波速度の測定は、愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センターをはじめとする各国研究機関で進められていましたが、唯一CaSiO3ペロブスカイトと呼ばれる高圧型鉱物だけは測定が困難でした。それは、この高圧型鉱物の結晶構造が常圧では維持できず、アモルファス(非結晶)へと変化することによります。
本研究を行ったグループは、新たな手法に基づき、約23万気圧・1700Kという深さ660 km不連続面に対応する圧力温度条件下で、CaSiO3ペロブスカイトの弾性波速度測定を直接測定することに初めて成功しました。この結果、この高圧型鉱物は従来予想されていたよりも、はるかに遅い弾性波速度を示すことが明らかになりました。
沈み込むプレート構成物質のうち、玄武岩からなる海洋地殻物質は、マントル深部条件下ではCaSiO3ペロブスカイトを20-30%含むことが知られています。今回の実験結果から、このような玄武岩質の物質は、周囲のマントルに比べて弾性波速度が大きく低下することがわかりました。
近年北アメリカなどの下の660 km不連続面直下において、地震波速度が低下する領域が発見されました。この地震波の速度低下は、この付近で生成する可能性があるマグマの影響であると解釈されています。しかし今回の研究は、この低速度領域が、この付近に存在する沈み込んだ海洋地殻に由来する、玄武岩質の物質により説明可能なことを示しました。
本研究は、海洋地殻物質は下部マントルの最上部に留まることを示しています。深さ660 km付近のマントル深部から上昇してきたと思われるダイヤモンド中から初めて天然のCaSiO3ペロブスカイトが発見されたことが2018年に発表されました。本研究結果はこの発見とも整合的であるとともに、マントル深部におけるプレートのゆくえの解明において、重要な意義を持つと考えられます。
論文情報
【掲載誌】 nature, 565, 218-221, 2019.
【題名】Sound velocity of CaSiO3 perovskite suggests the presence of basaltic crust in the Earth’s lower mantle (CaSiO3ペロブスカイトの音速測定により,下部マントルに玄武岩質地殻物質が存在することを示唆)
【著者】 Steeve Gréaux, Tetsuo Irifune, Yuji Higo, Yoshinori Tange, Takeshi Arimoto, Zhaodong Liu and Akihiro Yamada
【DOI】10.1038/s41586-018-0816-5
助成金等
- 科学研究補助金(基盤研究S 25220712, 新学術領域 15H05829)
図表等
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マントルに沈み込む海洋プレート
沈み込む海洋プレートの概念図で、660km不連続面の下に玄武岩質の海洋地殻物質が、また、660km不連続面の上にハルツバージャイト岩質の物質が溜まっていることが本研究から示唆されます。
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問い合わせ先
氏名 : Steeve Gréaux
電話 : 089-927-8405
E-mail : greaux@sci.ehime-u.ac.jp
所属 : 地球深部ダイナミクス研究センター