使用済み自動車および廃電子機器の不適切なリサイクル処理にともなう有害化学物質の環境放出
【研究のポイント】
●ガスクロマトグラフ三連四重極質量分析計(GC-MS/MS)を駆使して、ベトナム廃棄物処理場のダストに残留していた有害化学物質の包括的な定性・定量分析を実施
●既存の難燃剤に加え新規代替物質による複合汚染の実態を解明
【研究の概要】
本研究では、ベトナムの使用済み自動車(ELV)および電子・電気廃棄物(e-waste)解体処理場で採取したダスト試料を対象に、塩素系および臭素系難燃剤(CFRs・BFRs)に加えリン酸エステル系難燃剤(OPEs)のスクリーニング調査を実施しました。その結果、有害性が指摘されている塩素系OPEsの特異な環境放出が明らかとなり、その主要な汚染源がELV関連廃棄物であることを突き止めました。
本研究チームは、ベトナムに存在するELV・e-waste解体処理場から採集したダストの有害化学物質汚染と組成プロファイルを詳細に解析し、ELV解体処理場でBFRsに比べ新興代替難燃剤であるOPEsの汚染が顕著であったことを世界に先駆けて明らかにしました。この研究成果は2022年10月1日に国際誌 「Environmental Pollution」 に掲載されました。
ELVおよびe-wasteは、多種多様な重金属および化学物質(難燃剤・絶縁剤等)を含んでいるため、有害廃棄物として認識されています。低所得国では不適切な方法で廃棄物のリサイクル処理がおこなわれていることから、有害化学物質の主要な発生・放出源となっており、周辺環境や近隣住民への悪影響が懸念されています。実際に、当研究グループがベトナムのe-wasteおよびELV解体処理場で実施した先行調査では、難燃性ポリマーに添加されているBFRsや、過去にコンデンサー等に使用されていたポリ塩化ビフェニル(PCBs)による高濃度汚染が明らかとなっています。本研究ではPCBsやBFRsに加え、CFRsやOPEsなどの代替難燃剤を含めた包括的なスクリーニング調査を実施し、上記の解体処理場における複合汚染の実態解明を試みました。調査の結果、ダスト試料から検出された難燃剤の総汚染レベルは、e-waste解体処理場に比べELV解体処理場で低値を示しました。しかし濃度組成プロファイルを解析したところ、ELV解体処理場では塩素系OPEsによる汚染の寄与割合が明らかに高く、車内シートに使用されているポリマーや繊維等からの環境放出が示唆されました。これらの結果は、自動車産業界におけるOPEsの使用実績やELV処理にともなう環境排出の実態について、今後さらなる調査が必要であることを示しています。
本研究は、愛媛大学とベトナム国立大学、そして国立環境研究所との共同研究プロジェクトとして実施されました。
論文情報
Comprehensive characterization of halogenated flame retardants and organophosphate esters in settled dust from informal e-waste and end-of-life vehicle processing sites in Vietnam: Occurrence, source estimation, and risk assessment, Anh Quoc Hoang, Ryogo Karyu, Nguyen Minh Tue, Akitoshi Goto, Le Huu Tuyen, Hidenori Matsukami, Go Suzuki, Shin Takahashi, Pham Hung Viet and Tetsuya Kunisue, Environmental Pollution, 310, 119809, DOI: 10.1016/j.envpol.2022.119809, 2022 (October 1).
助成金等
- 日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))(JP18KK0300)
図表等
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ベトナムに存在する使用済み自動車(ELV)廃棄物の解体処理場
使用済み自動車の部品には、臭素系難燃剤(BFRs)やリン酸エステル系難燃剤(OPEs)などの多様な有害化学物質が含まれている。
credit : ©高橋 真(愛媛大学)
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問い合わせ先
氏名 : 国末 達也
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所属 : 愛媛大学沿岸環境科学研究センター