深発地震の発生メカニズムを高温高圧下での地震発生モデル実験により提案
【研究のポイント】
・「深発地震」は地上に多大な被害を引き起こすこともあるが、その発生メカニズムはよくわかっていなかった。
・世界で初めて深発地震が発生する深さ約470kmまでの圧力(約16万気圧)条件下で、マントル鉱物(カンラン石)が変形・破壊する様子を、X線その場観察と微小破壊に伴う超音波(AE)測定により捉えた。
・この結果、特定の温度でカンラン石がナノ粒子化し、断層すべりを引き起こし、深発地震発生に至ることがわかった。また断層面では、2000℃をはるかに越える極めて高い温度が発生したことも確認された。
・深発地震は、準安定的に存在するカンラン石がナノ化する、沈み込むプレートの特定の場所でのみ発生することが示された。
【研究の概要】
愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センターの大内智博准教授、入舩徹男教授と高輝度光科学研究センターの肥後祐司研究員らの研究チームは、今まで不明だった深さ400~600kmで発生する「深発地震」の発生原因の解明につながる実験に成功しました。
深発地震が発生する地下条件に相当する高温高圧下での地震発生モデル実験によって、特定の温度(850℃周辺)のみにおいてカンラン石のナノ粒子化が進行し、このナノ粒子層への変形エネルギーの集中と部分的溶融が起きる結果、深発地震に至ることを明らかにしました。
本研究の結果は、長年謎に包まれていた深発地震の発生メカニズムの有力な説明になるとともに、深発地震の発生がプレート深部の特定の場所(「準安定カンラン石ウェッジ(MOW)」と呼ばれる領域の表面付近)に限定されることを意味しています。今後、そのような領域を継続的に監視することによって、深発地震の発生場所・発生頻度・規模などをモデル化するための手掛かりが得られるものと期待されます。
本研究成果は、英国の科学雑誌「Nature Communications」に9月15日に掲載されました。
私達が住む地表のプレート(厚さ約60キロメートル)はゆっくりと流れるマントルに浮いているため、マントルの流れと一緒に移動します。プレート同士が衝突したり、プレートが地下深くへ沈み込む過程で地震が発生します。地震は、その震源位置の深さや場所によって分類されます。地表付近(地下10~40 km)で起きる浅い地震はプレートの境目や陸の直下で度々起きるため、津波を伴う地震や直下型地震を引き起こし、時にはマグニチュード8に達することもあるため大きな被害をもたらします。一方、『深発地震』は深さ300 km以深の沈み込むプレート内部で起きる地震ですが、その発生頻度は高くはありません。しかし発生した場合にはマグニチュード7クラスに達する場合が多い上、『異常震域』(震源から遠く離れているにもかかわらず強い揺れを観測する場所)を伴うといった特異な性質で知られています。また、深さとともに地震は起きにくくなるのが一般的ですが、深さ400~600 kmでは深発地震の発生頻度が例外的に高くなっていることも知られています。そのため、カンラン石(プレートの中で最も多い鉱物)の結晶構造が圧力によって変化することがきっかけとなって、『深発地震』が起きると考えられてきました。しかし深さ400~600kmは13~20万気圧もの高圧環境下に相当するため、カンラン石を用いた再現実験は技術的に困難でした。
愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)の大内智博准教授、入舩徹男教授と、高輝度光科学研究センターの肥後祐司研究員らの研究グループは、深発地震が多発する深さ390~470キロメートルのプレート内部に相当する温度圧力条件下(600~1100℃、13~16万気圧)でのカンラン石の変形実験を大型放射光施設SPring-8のBL04B1にて行いました。この実験ではGRCで独自に開発した高圧力環境用の測定技術を用い、カンラン石試料を押しつぶした際に発生する『アコースティック・エミッション』という音波を検出することに成功しました。これは、実験中に試料の中に断層が形成されたこと、すなわち実際の深発地震が発生する温度条件下における実験での地震発生を人工的に達成したことの証明になります。実験試料の放射光X線による観察の結果、カンラン石が圧力効果によって結晶構造を変化させる際に、特定の温度(850℃周辺)ではナノ粒子からなる脆弱層を形成することが確認されました。変形のエネルギーがその脆弱層に局所集中することで、瞬間的にその部分が2400℃もの非常に高い温度に達することでカンラン石が溶融し(図1)、それに伴うカンラン石の強度低下の結果として断層形成と地震発生に至る(図2)ことが明らかとなりました。
本研究の結果は、カンラン石の模擬物質を用いた先行研究による予測とも一致しているとともに、深発地震の発生がプレート深部の特定の場所(『準安定カンラン石ウェッジ(MOW)』と呼ばれる領域の表面付近:図3)に限定されることを意味しています。MOWの存在は地震観測網によって捉えることができるため、その領域を集中的に監視することで、今後深発地震の発生場所・発生頻度・規模などをモデル化していく上での手掛かりが得られるものと期待されます。
論文情報
In situ X-ray and acoustic observations of deep seismic faulting upon phase transitions in olivine, Tomohiro Ohuchi, Yuji Higo, Yoshinori Tange, Takeshi Sakai, Kohei Matsuda and Tetsuo Irifune, Nature Communications,doi.org/10.1038/s41467-022-32923-8
助成金等
- JSPS科研費 16H04077, 18K18788, 19H00722
図表等
-
15.5万気圧、850℃の実験環境下にてカンラン石試料内に形成された断層
左側:試料全体の写真。試料を横断する断層(赤破線)が見られる。中央:カンラン石とワズレアイト(圧力によってカンラン石から結晶構造が変化した鉱物)のナノ粒子で充填された脆弱層で滑った断層。右側:脆弱層の拡大図。カンラン石のナノ粒子の粒間に鉄(Fe:緑色)に富んだ部分溶融メルトが見られる。
credit : 大内智博(愛媛大学)
Usage Restriction : 使用許可を得てください -
深発地震の発生メカニズムの概要
左側:13万気圧以上の高圧力環境下でカンラン石が押しつぶされる際に、カンラン石のナノ粒子からなる脆弱層が形成される。右側:変形エネルギーが脆弱層に集中する結果、2400℃以上の高温が発生し、カンラン石が部分的に溶融することで断層すべりが引き起こされる。その結果、深発地震が発生する。
credit : 大内智博(愛媛大学)
Usage Restriction : 使用許可を得てください -
日本列島下に沈み込むプレートと深発地震
マントル深部へと沈み込む太平洋プレートでは、深さ400~600kmに達するとその内部に準安定カンラン石ウェッジ(MOW)が形成される。本研究の結果より、深発地震の発生はMOWの表面付近に限定されることが予想される。
credit : 大内智博(愛媛大学)
Usage Restriction : 使用許可を得てください
問い合わせ先
氏名 : 大内 智博
電話 : 089-927-8159
E-mail : ohuchi@sci.ehime-u.ac.jp
所属 : 地球深部ダイナミクス研究センター