高分子合成における新しい末端官能基化手法の開発に成功

N-置換マレイミドを配位子とする新規Pd錯体を用いたジアゾ酢酸エステルのC1重合による末端官能性ポリマーの合成

【研究のポイント】
● N-置換マレイミドを配位子とする比較的安定な新規Pd(0)錯体の合成に成功
● 炭素―炭素結合を主鎖骨格にもつポリマーの新たな末端官能基化の手法の開発に成功

【研究の概要】
愛媛大学大学院理工学研究科の下元浩晃准教授と井原栄治教授らの研究グループは、炭素―炭素結合を主鎖骨格にもつポリマーの新たな末端官能基化の手法の開発に成功しました。
一般に、鎖末端に官能基が導入されたポリマーは末端官能性ポリマーと呼ばれ、機能性ポリマーの材料などとして工業的にも広く利用されています。近年の精密重合技術の発展に伴い、種々の高分子合成手法において末端官能性ポリマーの合成が可能になってきています。本成果は、これまで困難であったジアゾカルボニル化合物をモノマーとする重合における末端官能化を可能にする新手法の開発です。本手法を応用することで、既存の高分子合成法では得ることが困難な構造を有するポリマーの合成が可能となり、新しい機能性ポリマー開発への応用も期待できます。
なお、本成果は、アメリカ化学会発行のMacromolecules誌電子版へ2022年7月14日に掲載されました。

炭素―炭素結合を主鎖骨格にもつポリマーを合成する最も一般的な手法の一つに、ビニル重合があります。ポリエチレンやポリプロピレンなどの汎用プラスチックをはじめ、工業的に有用な多くのポリマーが、このビニル重合によって合成されています。この手法は、ビニル化合物をモノマーとするため、主鎖骨格が2炭素ユニットごと構築されます。一方で、当研究グループが世界に先駆けて開発したジアゾ酢酸エステルの C1 重合の手法は、1炭素ユニットから主鎖を構築してポリマー(C1ポリマー)を合成する手法です。そのため、すべての主鎖炭素上に官能基を導入することができ、一般的なビニルポリマー(多くの場合1炭素おきに官能基を有する)と比べて、官能基が集積した構造であることによる特徴的な性質や機能の発現が期待されます。
最近の精密重合技術の進展に伴い、一次構造の制御されたポリマーを得ることが可能になってきています。重要な一次構造制御の一つとして、末端構造制御が挙げられます。一般に、ポリマーにおいては分子全体に占める末端基の割合が低いため、末端構造の違いは無視されることが多くあります。一方で、末端構造のわずかな違いによってポリマーの性質が劇的に変化する場合があります。また、末端官能基を次の反応へと利用することで、表面修飾やブロック共重合体の合成が可能となるため、表面改質剤や接着剤、熱可塑性エラストマーなどの機能性ポリマー合成へ応用可能です。そのため、これまでに種々の高分子合成法において、さまざまな末端官能性ポリマーが合成されてきました。しかし、ジアゾカルボニル化合物の C1 重合においては、末端官能性ポリマーを得ることはこれまで困難でした。そのような状況の中、我々のグループで新たに開発に成功したN-置換マレイミドを配位子とする新規Pd錯体が、ジアゾカルボニル化合物の C1 重合を触媒し、生成ポリマーの開始末端に配位子であるN-置換マレイミド由来の官能基を有するポリマーを生成することを見出しました。本重合手法を用いることで、種々の末端官能基(例えば、ヒドロキシ基やカルボキシ基、アミノ基など)を有するC1ポリマーが得られるようになると期待されます。本成果は、炭素―炭素結合を主鎖骨格にもつポリマーの新たな末端官能基化を可能にするものであり、新規な機能性ポリマー開発への応用が期待されます。

参考 URL: http://www.ach.ehime-u.ac.jp/poly/index.html

論文情報

タイトル:Polymerization of Diazoacetates Initiated by the Pd(N-arylmaleimide)/NaBPh4 System: Maleimide Insertion into a Pd–C Bond Preceding to Initiation Leading to Efficient α-Chain-End Functionalization of Poly(alkoxycarbonylmethylene)s
[Pd(N-アリールマレイミド)/NaBPh4開始剤系を用いたジアゾ酢酸エステルの重合:Pd–C結合へのマレイミド挿入反応による末端官能性ポリ(アルコキシカルボニルメチレン)の合成]
著者:Hiroaki Shimomoto,* Hinano Hayashi, Kyoka Aramasu, Tomomichi Itoh, and Eiji Ihara*
ジャーナル名:Macromolecules
発行日:2022年7月14日(電子版)
DOI: 10.1021/acs.macromol.2c00508

助成金等

  • JSPS科研費 JP16K17916, JP18H02021, JP19K05586, JP19K22219

図表等

  • ビニル重合とC1重合

    ビニル重合とC1重合

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  • ジアゾ酢酸エステルのC1重合による末端官能性ポリマーの合成

    ジアゾ酢酸エステルのC1重合による末端官能性ポリマーの合成

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問い合わせ先

氏名 : 下元 浩晃
電話 : 089-927-9949
E-mail : shimomoto.hiroaki.mx@ehime-u.ac.jp
所属 : 愛媛大学大学院理工学研究科