地球最深部マントルの熱輸送特性
愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センターの出倉春彦講師・土屋卓久教授は,地球深部マントルの主要構成鉱物と考えられているMgSiO3ブリッジマナイト(Brg)およびポストペロブスカイト(PPv)の格子熱伝導率(κ)をコンピューターシミュレーションに基づき決定し,Brg-PPv相転移に伴いκが増加することを発見しました。このことは,Brg-PPv相転移境界が格子熱伝導率の境界でもあることを示しています。また,最深部マントルの熱輸送特性へのPPv結晶の選択的配向による影響は小さいことも明らかにされました。
地球の最深部マントルの熱輸送特性の解明は,マントルの対流様式,地磁気の時間発展,内核の成長など,地球深部の熱進化を理解するうえで必要不可欠です。しかし,下部マントルは超高温高圧環境のため(およそ20-140万気圧,2000-4000 K),熱伝導率の実験的な測定は容易ではありません。研究者らは,下部マントルの主要構成鉱物と考えられているMgSiO3ブリッジマナイト(Brg)およびそれの最深部マントル条件下の高圧相として知られているポストペロブスカイト(PPv)の格子熱伝導率(κ)を量子力学シミュレーションにより決定しました。その結果,Brg-PPv相転移に伴いκが増加し,最深部マントルにおける相転移境界は格子熱伝導率の境界でもあることを発見しました(図1)。これにより,相転移が核からマントルへと運ばれる熱流束の不均質性を増加させ,マントル・核のダイナミクスに影響を与える可能性が示唆されました。また,最深部マントルではPPv結晶のc軸方向が核-マントル境界に対して垂直な方向に選択配向することが地震学的観測から推定されているため,研究者らは最深部マントルにおける熱流束に対するPPv結晶の選択的配向による影響も調べました。その結果,上述の選択配向が形成されている場合のκと結晶がランダムに配向している場合のκとの差はわずかであり,地球最深部マントルの熱輸送特性へのPPv結晶の選択配向による影響は小さいことが明らかにされました。
参考 URL1:
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1029/2019GL085273
論文情報
【掲載誌】Geophysical Research Letters, 46 (22), 12919-12926
【題名】Lattice Thermal Conductivity of MgSiO3?Postperovskite Under the Lowermost Mantle Conditions From Ab Initio Anharmonic Lattice Dynamics
【著者】Haruhiko Dekura and Taku Tsuchiya
【DOI】10.1029/2019GL085273