海産の二枚貝から新たに生物蓄積性化合物を発見!
広島湾のイガイと堆積物に残留する有機ハロゲン化合物のノンターゲット/ターゲットスクリーニング
広島湾のイガイと堆積物に残留する既知・未知の有機ハロゲン化合物をスクリーニングした結果、未知のミックスハロゲン化合物が沿岸域に遍在し、残留性有機汚染物質と同等の高い生物蓄積性を示すことが本研究で明らかとなりました。
本研究チームは、広島湾に生息するイガイから新規生物蓄積性化合物を発見し、環境中における非意図的生成 (天然生成) の可能性を提示しました。この成果は2020年3月12日に国際学術誌 「Environmental Science & Technology」 に掲載され、本号の表紙に選出されました。
ポリ塩化ビフェニル (PCBs)、ジクロロジフェニルトリクロロエタン (DDT)、そしてダイオキシン類などの残留性有機汚染物質 (POPs) は環境残留性や生物蓄積性が高く、ヒトや野生動物種に対して悪影響を及ぼすことが危惧されています。POPsは 「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約 (POPs条約) 」によって厳しく規制されており、廃絶 (生産・使用の禁止) や非意図的生成の削減が推進されています。POPs条約が発効した2004年5月以降、多数の有機ハロゲン化合物 (OHCs) が新規POPsに追加登録されてきましたが、国際的に注目を集めているPOPsやその候補物質は既知の人工汚染物質に限定されます。そのため、未知POP様物質の生成や環境排出、そして生物曝露は見落とされている可能性が高いです。
沿岸域におけるOHCsの天然生成も新たな環境問題となり得ます。海産の藻類やバクテリアが生合成する特定の天然有機ハロゲン化合物 (HNPs) は、POP様の物理化学特性や毒性を示すことが知られています。海洋生物相は人為・天然起源双方に由来するOHCsに曝露されている可能性があるが、これら化合物群の包括的なスクリーニング調査は十分に実施されておらず、なかでも魚介類等の低次栄養段階生物を対象とした研究例は欠落しています。
そこで本研究チームは、二次元ガスクロマトグラフ–高分解能飛行時間型質量分析計 (GC×GC–HRToFMS) 及びガスクロマトグラフ–高分解能二重収束型質量分析計 (GC–HRMS) を駆使して、広島湾のイガイと堆積物に残留する既知・未知のPOP様物質をスクリーニングしました。その結果、既知のOHCs (POPsやHNPs) に加え、塩素と臭素が置換した未知のミックスハロゲン化合物 (UHC-Br3–5Cl) が検出され、示性式はC9H6Br3ClO、C9H5Br4ClO、C9H4Br5ClOと推定されました。これらの未知化合物は製造実績がないにも関わらず湾沿岸域に遍在していたため、環境中における非意図的生成 (天然生成) が示唆されました。さらにUHC-Br3–5Clで認められた生物相 (イガイ) –堆積物蓄積係数 (BSAF) は、同等の脂溶性 (logオクタノール–水分配係数: log Kow) を有するPOPsのBSAF値に比べ1桁高値であったことから、UHC-Br3–5Clの高い生物蓄積性が示されました。今後は、低次–高次栄養段階生物を対象とした人為・天然起源OHCsの包括的なモニタリングと生態毒性リスクの評価が必要です。
論文情報
掲載誌:Environmental Science & Technology
題名:Nontarget and target screening of organohalogen compounds in mussels and sediment from Hiroshima Bay, Japan: occurrence of novel bioaccumulative substances [広島湾のイガイと堆積物に残留する有機ハロゲン化合物のノンターゲット/ターゲットスクリーニング: 新規生物蓄積性化合物の存在]
著者:Akitoshi Goto, Nguyen Minh Tue, Tomohiko Isobe, Shin Takahashi, Shinsuke Tanabe, and Tatsuya Kunisue
DOI:10.1021/acs.est.9b06998
URL:https://doi.org/10.1021/acs.est.9b06998
助成金等
- 日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)基盤研究A (19H01167)
- 日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)挑戦的研究 (萌芽) (19K22911)
- 日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)研究活動スタート支援 (18H06497, 19K21559)
- 日本生命財団 2018年度若手研究・奨励研究助成
- 文部科学省 共同利用・共同研究拠点 「化学汚染・沿岸環境研究拠点 (LaMer)」
図表等
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イガイと堆積物から検出された代表的な有機ハロゲン化合物のBSAF値
credit : Environmental Science & Technologyの許可を得て掲載。© 2020 American Chemical Society
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問い合わせ先
氏名 : 国末 達也
電話 : 089-927-8162
E-mail : kunisue.tatsuya.ew@ehime-u.ac.jp
所属 : 沿岸環境科学研究センター