タンパク質相互作用解析に利用可能な新たなツールを開発

ー全タンパク質レベルでの簡便な相互作用解析が可能にー

タンパク質は生体内において、様々な他のタンパク質と相互作用することで役割を果たしています。そのため、生体内でのタンパク質のはたらきを研究する上で相互作用解析は欠かせない技術です。近年注目されているタンパク質相互作用解析技術の一つとして近位依存性ビオチン化(BioID)と呼ばれる技術があります。これは相互作用するタンパク質を網羅的にビオチン標識することで、相互作用タンパク質を見つけ出す技術です。この技術にはBioID酵素が必要であり、現在3種類の酵素が報告されています。しかし、それらの酵素には活性の低さや特異性の低さ、細胞への毒性などの問題がありました。本研究では、これらの問題点を改善した利用しやすいBioID酵素の開発を行いました。メタゲノムデータを利用した祖先型酵素再構築アルゴリズムにより設計された新たな酵素はAirIDと名付けられ、高い活性と特異性を両立し、毒性も低い酵素であることが確認されました。今後、AirIDはタンパク質相互作用に関係する幅広い分野での利用が期待されます。

生体内においてタンパク質は生物にとって必要不可欠な数多くの生理機能を制御しています。ヒトには20,000種類以上のタンパク質が存在し、それぞれが異なる役割を担っています。これらのタンパク質は単独ではなく、他のタンパク質と相互作用することでその役割を果たしています。近位依存性ビオチン標識(BioID)技術は、この相互作用するパートナータンパク質を探し出すための技術です。この技術では、BioID酵素を標的タンパク質と融合することにより、標的タンパク質と相互作用するタンパク質がビオチンと呼ばれる化学物質で標識され、それらビオチン化されたタンパク質を特定することにより標的タンパク質と相互作用するタンパク質を網羅的に同定することができます。

これまで、3種類のBioID酵素(BioID、BioID2、TurboID)が開発・利用されてきました。しかしながら、BioID及びBioID2は16時間以上の長い反応時間を必要とし、TurboIDは相互作用していないタンパク質までもビオチン標識してしまうという問題点がありました。そのため、それらを改善した新たなBioID酵素が求められていました。

本研究では、タンパク質相互作用解析技術であるBioIDに利用できる新たなビオチン化酵素を開発しました。静岡県立大学のメタゲノムデータを利用した祖先型酵素再構築アルゴリズムにより、大腸菌が持つビオチン化酵素(BirA)の配列から新たなビオチン化酵素の配列を設計しました。設計された新規BioID酵素をAirIDと名付け、ビオチン化活性および特異性、細胞への毒性を解析しました。その結果、AirIDは3時間以内のビオチン化を可能とし、24時間反応させても非相互作用タンパク質をビオチン化しないこと、細胞毒性を一切示さないことが確認されました。これらの結果から、AirIDは短時間から長時間の反応に幅広く利用できる汎用性が高いビオチン化酵素であると言えます。また、本研究では、AirIDがタンパク質相互作用阻害剤の評価や3種類以上のタンパク質が形成する複合体の解析、Molecular Glueと呼ばれる化合物を介した相互作用解析にも利用できることが示されました。さらに、AirIDを融合したIκBαを発現させた培養細胞でビオチン化されたタンパク質を質量分析で特定することにより細胞内でIκBαと相互作用するタンパク質を網羅的に同定することにも成功しました。AirIDは高い活性と特異性を有し、細胞毒性の低い酵素であることから、細胞内でのタンパク質相互作用を網羅的に解析するツールとしての利用が期待されます。

参考 URL1: https://elifesciences.org/articles/54983

論文情報

AirID, a Novel Proximity Biotinylation Enzyme, for Analysis of Protein-Protein Interactions, Kohki Kido , Satoshi Yamanaka , Shogo Nakano , Kou Motani , Souta Shinohara , Akira Nozawa , Hidetaka Kosako , Sohei Ito and Tatsuya Sawasaki, Elife, (2020) 9, e54983, doi: 10.7554/eLife.54983.

助成金等

  • 日本医療研究開発機構JP19am0101077
  • 日本学術振興会JP16H06579, JP16H04729, JP19H03218, 18KK0229

図表等

  • 図1. 祖先型酵素AirIDによる相互作用タンパク質のビオチン標識

    図1. 祖先型酵素AirIDによる相互作用タンパク質のビオチン標識

    メタゲノムデータを利用した祖先型酵素再構築アルゴリズムにより大腸菌のビオチン化酵素BirAの配列からAirIDを設計した。AirIDは高いビオチン化活性を有し、細胞毒性が低いことから、標的タンパク質との融合タンパク質として細胞内で発現させることによりその標的タンパク質と相互作用するタンパク質をビオチン化することが可能である。これらビオチン化されたタンパク質を質量分析で同定することにより細胞内で標的タンパク質と相互作用するタンパク質を網羅的に解析することが可能となる。

    credit : 澤崎達也(愛媛大学)
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