微生物代謝による鉄筋コンクリートの腐食抑制技術
老朽化する鉄筋コンクリートの長寿命化に向けて
セメント硬化体では,細孔溶液中の溶存酸素が鉄筋腐食反応を支配する要因の一つとなる。本研究では,好気性微生物を練り混ぜたセメント硬化体を対象として鉄筋腐食抵抗性の向上効果について検討した。その結果,好気性微生物である枯草菌をコンクリートに練り混ぜることで,埋設鉄筋への酸素透過が抑制され,鉄筋腐食が抑制されることが明らかとなった。
鉄筋腐食は鉄筋コンクリートの耐久性が低下する主たる原因である。鉄筋腐食は,アノード・カソードから形成される腐食セルの電気化学的反応により進行する。特に,カソードでは水と酸素を消費して反応するため,コンクリート中の鉄筋への酸素透過は鉄筋腐食反応を支配する要因の一つとなる。
枯草菌(納豆菌)は,環境に対する耐性が高い微生物であり,塩分やpHレベルに応じて胞子を形成することができる。このような好気性微生物をコンクリート中に練り混ぜることで,セメント硬化体中の溶存酸素は微生物代謝に伴い低減すると考えられる。またコンクリート中の酸素透過は,細孔溶液中の溶存酸素濃度に関連しているため,溶存酸素濃度が低減すればその透過性は低下することとなる。
本研究では,上述した枯草菌による微生物代謝により細孔溶液中の溶存酸素濃度を低減させ,鉄筋腐食を抑制する方法を見出した。すなわち,鉄筋腐食反応のうちカソード反応を抑制することで鉄筋腐食抵抗性が向上することを明らかにした。本技術では,ひび割れを炭酸カルシウムによる閉塞させるひび割れ補修(自己(自律)治癒コンクリート)も同時に生じることから,かぶりコンクリートの物質透過抵抗性の向上にも寄与することが示唆されている。
実験的検討では腐食試験を実施し,ACインピーダンス法,自然電位法,無抵抗電流計を用いたマクロセル腐食計測などの電気化学的計測を用いて検討を行った。また,材齢28日および91日にカソード分極試験を実施し,限界電流を仮定することで埋設鉄筋への酸素透過速度を算定した。
本研究の結果,枯草菌を練り混ぜたセメント硬化体中の酸素透過速度は,明らかに低下することが示された。これは,セメント硬化体において細孔溶液中の溶存酸素濃度が微生物代謝に伴い低下したことに起因するといえる。この結果,鉄筋腐食反応のうちカソード反応が抑制されることで鉄筋腐食抵抗性が向上し,腐食電流が小さくなることが示された。以上から,好気性微生物の混入によりセメント硬化体中の溶存酸素濃度を低下させることで,鉄筋腐食を抑制する効果が得られることが示唆された。
参考 URL1: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0008884618302564?via%3Dihub
論文情報
【掲載誌】Cement and Concrete Research
【題名】Corrosion resistance of steel bars in mortar mixtures mixed with organic matter, microbial or other(微生物を混入したモルタルの鉄筋腐食抵抗性)
【著者】K.Kawaai, T.Nishida, A.Saito, I.Ujike, S.Fujioka
【DOI】https://doi.org/10.1016/j.cemconres.2019.105822