小さな分子の変化が大きな微粒子の変形に至るまで
分子レベルの光異性化を高分子鎖・内部構造を介して微粒子変形へと伝達
【研究成果のポイント】
・光応答性分子アゾベンゼンを主鎖に組み込んだ高分子微粒子を開発
・ラジカル型チオール-エン重付加反応による新しい微粒子作製法を確立
・光異性化により高分子鎖の収縮と内部配向構造の変化が生じることを解明
・分子 → 高分子鎖 → 内部構造 → 微粒子形状へと至る階層的な構造変化を実証
・光応答性微粒子の新たな材料設計指針を提示
【研究成果の概要】
愛媛大学大学院理工学研究科の伊藤講師らは、光で分子の形が変わるアゾベンゼンを主鎖に組み込んだ高分子微粒子を開発しました。
光を当てると、分子構造の変化が高分子鎖と内部構造へ伝わることで、直径数〜数十μmの微粒子全体が変形することを明らかにしました。
本成果は、分子レベルの変化が微粒子の変形へつながる仕組みを示し、光応答性微粒子の設計に新たな指針を与えるものです。
光に応答して形状や物性を変化させる材料は、ソフトロボティクスやマイクロデバイスなどへの応用が期待されており、近年活発に研究されています。
アゾベンゼンは代表的な光応答性分子の一つであり、紫外線照射によってtrans体からcis体へ、可視光照射によって再びtrans体へと可逆的に光異性化します。この際、アゾベンゼン分子内の4位および4’位炭素間距離は0.90 nmから0.55 nmへ変化します。このような光異性化に伴う分子構造の変化は、光応答材料の駆動原理として利用されています。
アゾベンゼンの光異性化を利用して材料を変形させる研究はこれまでにも数多く報告されています。アゾベンゼンを含む高分子微粒子も報告されていますが、分子レベルの構造変化が高分子鎖や内部構造を介してどのように伝達され、最終的に微粒子全体の変形へとつながるかについては十分には明らかになっていませんでした。特に、光応答において、分子構造、高分子鎖の広がり方、内部配向構造、微粒子形状の関係を体系的に理解した例は限られていました。
愛媛大学大学院理工学研究科の伊藤講師らの研究グループは、アゾベンゼンを高分子主鎖そのものに組み込んだ主鎖型アゾベンゼン高分子を設計し、ラジカル型チオール-エン重付加反応によって直径が数〜数十μmの高分子微粒子を作製しました。
得られた高分子微粒子を詳細に解析した結果、アゾベンゼンの光異性化によって高分子鎖の広がり方が変化し、それに伴って内部の配向構造も変化することが分かりました。さらに、この階層的な構造変化が微粒子全体へと伝達され、最終的に微粒子の形状そのものが変化することを実証しました。
すなわち、本研究では、
➀アゾベンゼンの光異性化(サブnm)
➁高分子鎖の広がり方の変化
➂内部配向構造の変化
➃高分子微粒子の変形(数~数十μm)
という一連の階層的な情報伝達機構を明らかにしました(図を参照)。
本研究は、光応答性高分子微粒子において、分子レベルの光異性化から微粒子レベルの変形に至るまでの構造変化の関係を体系的に示した成果です。分子設計、高分子鎖構造、内部構造、粒子形状を結び付ける新しい材料設計指針を提供するものであり、今後は光応答性微粒子や機能性マイクロ材料の開発への展開が期待されます。
論文情報
タイトル:Coupled Photoisomerization, Chain Reorientation, and Shape Deformation in Main-Chain Azobenzene Polymer Particles Prepared by Heterogeneous Radical-Mediated Thiol–Ene Polyaddition
著者:Tomomichi Itoh*, Shoma Yamamoto, Yuito Takechi, Yuki Itoh, Hiroaki Shimomoto, and Eiji Ihara
掲載誌:Macromolecules, 2026, 59 (19), 10687–10699
DOI: 10.1021/acs.macromol.6c02195
Published in Issue: October 13, 2026
助成金等
- Japan Society for the Promotion of Science (JSPS) 科研費 JP24K08543
図表等
問い合わせ先
氏名 : 伊藤 大道
電話 : 089-927-8522
E-mail : ito.tomomichi.mh@ehime-u.ac.jp
所属 : 愛媛大学大学院理工学研究科
