神経細胞が長い遺伝子を読み出す新たな仕組み

長い遺伝子はどう読み出される?―RNAを足場に形成される核内コンデンセートが、必要な多様な分子を集め、遺伝子発現を一体となって制御する

【研究成果のポイント】
・神経細胞で働く100 kbを超える「超長鎖遺伝子」を正確に読み出す新たな仕組みを発見
・SFPQというRNAに結合するタンパク質が、長いRNAを足場として、核内に網目状の「コンデンセート(膜のない分子の集まり)」を形成
・このコンデンセートに、遺伝子を読み出し、RNAを加工するために必要なさまざまな分子が集まることを発見
・この仕組みの破綻が、神経疾患における超長鎖遺伝子発現異常に関与する可能性を提示

【研究の概要】
哺乳類の神経細胞では、神経の働きに重要な100 kbを超える非常に長い「超長鎖遺伝子」が数多く働いています。しかし、神経細胞がこれほど長い遺伝子をどのように最後まで正確に読み出しているのかは、十分に分かっていませんでした。本研究では、SFPQというRNA結合タンパク質が、長いRNAを足場として核内に網目状の「コンデンセート(膜のない分子の集まり)」をつくることを発見しました。このコンデンセートには、遺伝子を読み出す「転写」や、できたRNAを加工する「スプライシング」などに必要なさまざまな分子が集まり、協力して超長鎖遺伝子の発現を支えていました。この仕組みがうまく働かないと、超長鎖遺伝子の発現が低下することも分かりました。本成果は、神経細胞が長い遺伝子を読み出す仕組みの理解を進め、自閉スペクトラム症や筋萎縮性側索硬化症などの神経疾患の病態解明につながることが期待されます。

ヒトを含む哺乳類の神経細胞では、シナプスや神経回路をつくるために重要な、100 kbから2 Mbを超える非常に長い遺伝子が数多く働いています。一般に、遺伝子の情報はDNAからRNAへと読み出されます。この過程を「転写」といいます。遺伝子が長いほど読み出しには時間がかかります。また、遺伝子が正しく働くためには、DNAからRNAを読み出すだけでなく、その過程をさまざまな段階で調節する必要があります。そのため、神経細胞には長い遺伝子を最後まで安定して読み出すための特別な仕組みが必要だと考えられてきましたが、その詳しい仕組みは分かっていませんでした。

本研究では、RNAに結合するSFPQというタンパク質に注目しました。超解像顕微鏡などを用いて調べたところ、SFPQは長いRNAを足場として、細胞核の中に網目状の「コンデンセート」をつくることが分かりました。コンデンセートとは、細胞の中で特定の分子が集まってできる、膜を持たない構造です。

さらに、このコンデンセートには、DNAからRNAを読み出す「転写」、できたRNAを適切につなぎ合わせる「スプライシング」、DNAを収納するクロマチンの状態を調節する仕組みなどに関わるさまざまな分子が集まっていました。SFPQコンデンセートをつくれなくすると、超長鎖遺伝子を最後まで読み出す過程やRNAのスプライシングがうまく進まず、遺伝子の発現が低下しました。

これらの結果から、SFPQコンデンセートは、非常に長い遺伝子を正確に働かせるために必要な複数の仕組みを一か所に集め、協力して働かせる「場」として機能すると考えられます。本研究は、これまで存在が示唆されてきた「転写伸長コンデンセート」の実体の一端を明らかにし、遺伝子発現を核内の空間構造という新しい視点から理解する手がかりを示しました。SFPQやその関連分子は、自閉スペクトラム症(ASD)や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などとの関連も知られています。今後、超長鎖遺伝子の発現異常という視点から、神経発達症や神経変性疾患の仕組みの理解が進むことが期待されます。

生体構造医学講座ホームページ
https://www.m.ehime-u.ac.jp/school/anatomy1/

参考 URL1: https://doi.org/10.1016/j.chembiol.2026.06.004

論文情報

Title:RNA-Dependent SFPQ Condensates Coordinate Multidimensional Regulation of Extra-Long Neuronal Genes
Authors:Motoyasu Hosokawa, Ryosuke Kawakami, Koshi Imami, Ryo Kurosawa, Takuya Yoshizawa, Yasushi Ishihama, Takeshi Imamura, Masatoshi Hagiwara, Akihide Takeuchi
Journal:Cell Chemical Biology, 2026
DOI:10.1016/j.chembiol.2026.06.004

助成金等

  • JSPS 科研費JP22H04926 (ABiS), JP15H05721, JP19K06907, JP21H05042, JP22H02797, JP25K02436, JP23K16771, JP20K17509
  • AMED JP23ek0109497
  • 公益財団法人 武田科学振興財団の研究助成
  • 公益財団法人 内藤記念科学振興財団の研究助成

図表等

  • RNA 結合因子SFPQの形成する「メッシュ様のコンデンセート(凝集体)」とその機能

    RNA 結合因子SFPQの形成する「メッシュ様のコンデンセート(凝集体)」とその機能

    神経細胞の核内で、SFPQがRNAを足場としてつくる網目状の「コンデンセート(膜のない分子の集まり)」を超解像顕微鏡で観察した画像(左、緑:SFPQ、赤:FUS)と、この構造が神経細胞で働く超長鎖遺伝子の発現を支え、その破綻が神経疾患に関わる可能性を示した模式図(右)。

    credit : 武内 章英
    Usage Restriction : 使用許可を得てください

  • SFPQコンデンセートに集まる遺伝子発現を支える分子群

    SFPQコンデンセートに集まる遺伝子発現を支える分子群

    SFPQコンデンセートには、遺伝子の読み出しやRNAの加工などに関わる多様な分子が集まることが、近接依存性分子標識法を用いた解析から明らかになりました。

    credit : 武内 章英
    Usage Restriction : 使用許可を得てください

  • SFPQコンデンセートが神経細胞の長い遺伝子を支える仕組み

    SFPQコンデンセートが神経細胞の長い遺伝子を支える仕組み

    SFPQコンデンセートが、神経細胞で働く超長鎖遺伝子の発現を複数の段階で支える仕組みと、その破綻が神経疾患に関わる可能性を示したイメージ図。

    credit : 武内 章英、Cell Chemical Biology (2026)
    Usage Restriction : 使用許可を得てください

問い合わせ先

氏名 : 武内 章英
電話 : 089-960-5231
E-mail : takeuchi.akihide.jo@ehime-u.ac.jp
所属 : 愛媛大学大学院医学系研究科 生体構造医学講座・教授