560kmマントル不連続面と整合する沈み込む海洋地殻の炭素循環
【研究のポイント】
1. 炭酸塩を含む海洋地殻組成を用いた高圧・高温実験を実行
2. 沈み込む炭酸塩と鉄に富む環境がデイブマオアイト(ケイ酸カルシウム)の離溶を促すことを実験で証明
3. デブマオアイトの濃縮が地球マントルの520km不連続面分裂(560kmにも不連続面)の原因
4. 沈み込んだ炭酸塩による深部炭素循環が、地球深部の鉱物相平衡・化学的層構造・地震学的な特徴を維持
【研究の概要】
地球深部における沈み込む海洋地殻とケイ酸塩の相互作用を、大容量マルチアンビル装置を用いた高圧高温実験により明らかにした。海洋地殻内の炭酸塩の存在により海洋地殻とケイ酸塩との間のCa-Mg交換が促進されるとともに、Feに富む条件下ではケイ酸塩へのCaの取り込みが増大し、ケイ酸カルシウム(デイヴマオアイト、CaSiO3)の溶出が著しく進むことが示された。この反応により、深さ約560km付近でデイヴマオアイトが体積比で12~33%まで濃集し、マントルの深さ520km付近の地震学的な不連続面が複数生成することを説明するために必要な2~4%の物性値の差異が生じる。深部炭素循環は、地球マントルにおける鉱物平衡、化学成層を能動的に再形成するうえで重要な役割を果たす。
地球マントル深部への炭素循環は、鉱物の溶融、マントルの酸化還元状態、水などの揮発性成分の輸送といった基本的な物理・化学過程をコントロールするが、地震波によって表現されるマントル内部構造における地球物理学的な特徴はこれまで明らかになっていなかった。顕著な地震学上の謎の一つは、沈み込むスラブおよび上昇するマントルプルームにおいて、深さ520km付近の地震学的な構造の不連続面に加え、そのやや下方、深さ約560kmにも不連続面反射面が観測されることである。これは以前、ケイ酸カルシウム(デイヴマオアイト、CaSiO3)の離溶(固溶体から特定成分の鉱物が溶出すること)に起因すると考えられていたが、デイヴマオアイトの物性値(地震波(S波)速度)では、観測される2~4%の物性値の不連続を生じさせることができなかった。
この問題を解決するため、本研究では、炭酸塩によって変質した海洋地殻に模した鉱物組成を対象に、大容量マルチアンビル装置を用いた高圧高温実験(約20万気圧、1,200~1,600℃)を行った。その結果、海洋地殻への炭酸塩の添加がケイ酸塩との顕著なCa-Mg交換を引き起こし、特にFeに富む条件下で、ケイ酸塩へのCaの取り込みを増加させることが明らかになった。この機構により、デイヴマオアイトの離溶が劇的に促進され、深さ約560km付近では同鉱物が体積比で12~33%まで濃集する。この量は、観測された地震学的な物性値のコントラストを説明するのに十分である。
さらに、マントルプルームによってマントル深部から地表へと再循環するデイヴマオアイトに富む地殻物質は、プルームによる高温熱的領域の下で検出される深さ560kmの地震波反射面の存在を説明する。沈み込んだ炭酸塩が鉱物相平衡を能動的に変化させ、化学的成層を強化し、地球内部における深部炭素循環の明瞭かつ長期にわたる地震学的痕跡を残すことを本研究は示している。
論文情報
Title: Deep carbon cycling drives the splitting of the 520-km mantle discontinuity
Author list: Xinyue Zhang, Wei Wei, Youyue Zhang, Zhu Mao, Ningyu Sun, Daoyuan Sun, Wei Leng, Takashi Yoshino, Izumi Mashino, Tomoo Katsura, Jiewen Li, Wancai Li & Jung-Fu Lin
Journal: Nature Communications
Published: 21 August 2026
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-026-76803-x
助成金等
- National Science Foundation of China (42488101 and 42425202)
- National Key R&D Program of China (2023YFF0803200)
- PRIUS Project 2025-A18 at Ehime University
- JSPS KAKENHI Grant(JP21H04996 and 24K17148)
- IPM (Project Number I23-013)
- Program of China Scholarship Council (No. 202306340150)
図表等
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520km不連続面の分裂(スプリッティング)形成に関する概念図
スラブ(沈み込んだプレート)の沈降に伴い、炭酸塩化した海洋地殻中でCaCO3がケイ酸塩と反応することで、ケイ酸塩中のCa含有量が大幅に増加する。Caが豊富になった海洋地殻内のケイ酸塩鉱物からデイブマオアイト(davemaoite)が析出(離溶)することで、深さ560km付近において2–4%のISS(インピーダンスコントラスト、物性値の差異)として地震学的に検出され得る。上昇するプルームは、Ca含有量の高い古代の変質海洋塩基性岩(海洋地殻)を地球表面へと運び戻す可能性があり、これも深さ約560kmで2–4%のISSという地震学的に観測可能なサインを示す可能性がある。
credit : ZHANG Youyue(愛媛大学)
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氏名 : 張 友悦
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