分解性を有する炭素主鎖骨格ポリマーの開発

【研究成果のポイント】
・安定な炭素-炭素(C–C)結合から構成されているために一般に分解性に乏しいポリマーに対し、少量のアルコキシカルボニルメチレン(ACM)ユニットを導入することで、塩基処理によってその主鎖を切断できるようになることを発見した。
・ポリスチレン(PS)やポリメタクリル酸メチル(PMMA)などの代表的なビニルポリマーにも分解性を付与できることを実証した。
・ACMユニットの導入による熱特性の低下がないことから、分解性の付与と材料性能の両立を達成した。

【研究成果の概要】
愛媛大学の研究グループは、化学的に安定な炭素―炭素結合を主鎖にもつポリマーに、アルコキシカルボニルメチレン(ACM)ユニットを導入することで、塩基処理によってその主鎖を切断できるようになる新しい高分子設計法を開発しました。まず、ジアゾ酢酸エステルと呼ばれる化合物をモノマーとする重合で合成したポリ(アルコキシカルボニルメチレン)が、汎用塩基試薬であるtert-ブトキシカリウム(t-BuOK)存在下で効率よく低分子量化することを明らかにしました。さらに、このACM単位を分解誘起部位として利用し、ポリスチレン(PSt)やポリメタクリル酸メチル(PMMA)の主鎖中へ導入したところ、通常は分解しない条件下でも分子量が大幅に低下することを実証しました。また、一部の材料では熱安定性やガラス転移温度の維持・向上も確認され、分解性と実用性能を両立できる可能性が示されました。本研究は、耐久性を維持しながら必要に応じて分解可能な高分子材料の開発に向けた新たな分子設計指針を示すものであり、将来的な資源循環型プラスチックの実現に貢献することが期待されます。なお、本成果はアメリカ化学会発行のMacromolecules誌電子版へ2026年5月4日に掲載されています。

愛媛大学大学院理工学研究科の下元浩晃准教授と井原栄治教授らの研究グループは、一般に分解性に乏しい炭素-炭素(C–C)主鎖骨格を有するポリマーに対し、「アルコキシカルボニルメチレン(ACM)ユニット」を導入することで、比較的穏やかな塩基条件下で分解可能にする新しい高分子設計法を開発しました(図1)。さらに、この設計法をポリスチレン(PS)やポリメタクリル酸メチル(PMMA)といった代表的なビニル系高分子へ適用できることを実証しました。

現在広く利用されている多くのプラスチックは、主鎖が炭素-炭素結合で構成されているため、優れた安定性を示す一方で、環境中への蓄積によって種々の環境問題を引き起こす要因にもなっています。そのため近年は、使用中は十分な耐久性を有しながら、使用後には容易に分解可能な高分子材料の開発が重要な研究課題となっています。

研究グループはまず、ジアゾ酢酸エステルの重合によって得られるポリ(アルコキシカルボニルメチレン)が、汎用塩基試薬であるtert-ブトキシカリウム(t-BuOK)を作用させることで効率よく分解することを見いだしました。この反応では、高分子主鎖中の水素原子が引き抜かれた後、レトロマイケル反応と呼ばれる反応が進行し、炭素-炭素主鎖が切断されます。その結果、高分子は低分子量のオリゴマーへと分解されることが明らかになりました。

さらに研究グループは、このACM単位が「分解誘起部位」として機能することに着目しました。そこで、工業的に重要なポリスチレン(PSt)やポリメタクリル酸メチル(PMMA)の主鎖中に少量のACM単位を導入した共重合体を合成し、その分解挙動を調査しました。その結果、通常のPStやPMMAは同じ条件下では分解しないにもかかわらず、ACM単位を含む共重合体では主鎖切断が進行し、分子量が大幅に低下することが確認されました。これは、ACM単位の導入によって、化学的に安定な炭素主鎖骨格ポリマーに分解性を与えられることを示しています。

また、本研究では分解性だけでなく材料特性についても評価を行いました。その結果、ACM単位の種類によっては、PStの熱安定性やガラス転移温度を維持あるいは向上できることが分かりました。さらにPMMAでは、ACM単位の導入によって熱分解温度が大きく上昇し、むしろ熱的に安定な材料となることも明らかになりました。すなわち、本手法は材料性能を損なうことなく分解性を付与できる可能性を有しています。

本研究は、炭素主鎖骨格ポリマーに対して塩基応答型の分解性を導入する新しい分子設計指針を提案するものです。特に、ACMユニットを導入するためのモノマーとして、フマル酸エステルやアクリル酸エステルといった市販の化合物を利用できることから、多様な高分子材料への応用が期待されます。今後は、耐久性と資源循環性を両立した次世代ポリマー材料の開発や、持続可能なポリマー材料設計への展開が期待されます。なお、本成果は、アメリカ化学会発行のMacromolecules誌電子版へ2026年5月4日に掲載されています。

参考 URL1: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.macromol.6c00248

論文情報

タイトル(英語):Base-Mediated Degradation of Carbon−Carbon Main Chain Polymers Bearing Alkoxycarbonylmethylene Repeating Units
タイトル(日本語):アルコキシカルボニルメチレンユニットを有する炭素主鎖骨格ポリマーの塩基による分解反応
著者:Hiroaki Shimomoto, Tsubasa Deguchi, Tomomichi Itoh, and Eiji Ihara
雑誌名:Macromolecules 2026, 59 (9), 5159-5169
発行日:2026年5月4日(電子版)
DOI:10.1021/acs.macromol.6c00248

助成金等

  • JSPS科研費 JP21H01988, JP22K05219, JP24K01540, JP25K08746

図表等

  • 図1

    図1

    炭素主鎖骨格ポリマーの合成と分解

    credit : 下元浩晃、出口翼、伊藤大道、井原栄治(愛媛大学)
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問い合わせ先

氏名 : 下元 浩晃
電話 : 089-927-9949
E-mail : shimomoto.hiroaki.mx@ehime-u.ac.jp
所属 : 愛媛大学大学院理工学研究科・准教授