発光するバイオ素材を樹木で創る

分子生物学×光化学による新たな挑戦

【研究のポイント】
・遺伝子組換えにより、リグニンに新規発色団構造を導入。
・高強度かつ消光しにくい発光特性、pH応答性も示す。
・可逆的な光二量化反応による光応答性の付加に成功。

【研究の概要】
本研究では、遺伝子組換え技術を用いて、樹木細胞壁を構成する成分である「リグニン」に新たな発色団構造を導入することに成功しました。ポプラにおいて特定酵素の発現を制御して発光特性を持つ化合物「スコポレチン」をリグニン分子内に組み込むことで、発光性・光応答性を持つリグニンを樹木内で生成することに初めて成功し、持続可能な機能性バイオ素材の開発に向けた新たな道を拓きました。得られたリグニンは、高強度かつ消光しにくい発光特性に加え、pH応答性や可逆的な光二量化反応など、特徴的な光機能を示しており、環境センシングやスマート材料への応用が期待されます。

リグニンは地球上で豊富な芳香族高分子であり、バイオマス資源として注目されてきましたが、構造の複雑さと難分解性から主に熱源としての利用に留まっており、より高付加価値な物質への変換が求められています。本研究では、リグニンの発光特性に着目し、発色団周辺環境の制御による発光強度や波長の制御を目指しました。特に、遺伝子工学を用いてポプラに発光性化合物スコポレチンを導入し、リグニン分子内に組み込むことで、発光波長の可視光域へのシフトや消光の抑制を実現しました。具体的には、グニン生合成経路の中間体であるフェルロイル-CoAを、クマリン類の一種である「スコポレチン」に変換する酵素「Feruloyl-CoA 6′-hydroxylase(F6’H1)」をポプラに高発現させました。得られたリグニンは、低極性溶媒中でも明瞭な発光を維持し、分子内で均一にスコポレチンが分布していることが示されました。また、ポリマー中でも発光が確認され、溶媒やポリマーとの相互作用が発光特性に影響することが明らかになりました。さらに、pH応答性や光二量化による可逆反応も確認され、環境応答型蛍光材料や光制御型材料への応用可能性が示されました。本研究は、未利用バイオマスであるリグニンを高機能な光材料へと転換する世界初の試みであり、持続可能な社会に貢献する新たな材料科学の展開が期待されます。

論文情報

Photoluminescence properties of lignin with a genetically introduced luminophore in a transgenic hybrid aspen that overproduces feruloyl-CoA 6-hydroxylase, Masatsugu Takada, Shota Horinouchi, Naning Wang, Mikiko Uesugi, and Shinya Kajita, Plant Biotechnology Journal, doi: 10.1111/pbi.70390, 2025(October 3).

助成金等

  • 科学研究費補助金(22K14927、25K00088)
  • 創発的研究支援事業(JPMJFR2277)
  • JST共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)(JPMJPF2104)

図表等

  • 遺伝子組換え技術によるリグニンへの新規発色団構造の導入

    遺伝子組換え技術によるリグニンへの新規発色団構造の導入

    遺伝子組換え技術を用いて、樹木細胞壁を構成する成分である「リグニン」に新たな発色団構造「スコポレチン」を導入しました。得られたリグニンは、高強度かつ消光しにくい発光特性に加え、pH応答性や可逆的な光二量化反応など、特徴的な光機能を示しており、環境センシングやスマート材料への応用が期待されます。

    credit : 髙田 昌嗣(愛媛大学)
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問い合わせ先

氏名 : 髙田 昌嗣
電話 : 089-946-9876
E-mail : takada.masatsugu.qb@ehime-u.ac.jp
所属 : 愛媛大学農学研究科