瀬戸内海のPCB:時空間変化、発生源、応答
瀬戸内海におけるポリ塩化ビフェニル(CB-153)の空間・季節変化と大気・河川からの供給量減少への応答
【研究のポイント】
・大阪湾におけるCB-153の濃度は、瀬戸内海の他の海域と比較して顕著に高かった。
・瀬戸内海におけるCB-153の供給源は、大気からのものが69%、次いで河川からのものが31%であった。
・大気由来のCB-153が減少すると、多くの海域でその濃度が同時に低下したが、大阪湾では河川からの供給が減少したことに伴い、濃度が低下した。
【研究の概要】
大阪湾におけるCB-153の濃度は、瀬戸内海の他の地域と比較して顕著に高かったです。瀬戸内海におけるCB-153の主要な供給源は大気であり、河川は二次的な寄与にとどまっています。大気からのCB-153の供給が減少するにつれて、大阪湾を除く多くの海域ではその濃度が著しく低下しました。一方、大阪湾においては、CB-153濃度の減少が河川からの流入の減少と一致しています。
ポリ塩化ビフェニル(PCB)は、広範囲に存在する残留性有機汚染物質(POPs)の一種です。CB-153はPCBの異性体の一つであり、沿岸域や陸棚海域においては、大気および河川からの流入がCB-153の主要な供給源として認識されています。日本の環境省による長期モニタリングの結果、近年、大気および河川中のCB-153濃度は有意に減少する傾向を示しており、これに対する沿岸海域のCB-153濃度の応答を定量的に評価する必要性が高まっています。
本研究では、瀬戸内海におけるCB-153の空間的および季節的変動、ならびに大気および河川からの供給減少に対する応答を評価するために、海水流動、低次生態系、PCB結合モデルを開発しました。このモデルは、溶存態および粒子態(植物プランクトンおよびデトリタスに結合した形態)のCB-153と、その物理的および生物地球化学的プロセスを再現することを目的としています。
モデルの結果によれば、溶存態CB-153の濃度は7月に最大となり、これは大気および河川からの供給によるものでした。粒子態CB-153の濃度は、春季のブルームにより植物プランクトン濃度が最大となる4月と、溶存態CB-153の濃度が最大となる7月にそれぞれピークを示しました。CB-153の高濃度は瀬戸内海沿岸域に広く分布しており、特に大阪湾では年間平均濃度が10.3 ng/m³と最も高く、その他の地域では平均2.9 ng/m³でした。
CB-153の収支解析によれば、大気からの供給が最大の供給源であり、その割合は69%に達しています。内訳としては、空気と海水間の拡散フラックスが61%、湿性沈着フラックスが8%を占めています。一方、河川からの流入は二次的な供給源として位置づけられ、その割合は31%です。
3つのシナリオ実験により、瀬戸内海の大部分の地域では、CB-153濃度の減少が主に大気中のCB-153濃度の低下によって説明されることが示されました。一方、大阪湾においては、河川水中のCB-153濃度の減少が主な要因となっていました。さらに、溶存態と粒子態のCB-153濃度は、大気および河川からのCB-153濃度の減少に対して異なる応答を示しました。特に、溶存態のCB-153は大気中濃度の低下に対してより敏感であり、粒子態のCB-153は河川水中濃度の低下に対してより敏感であることが明らかになりました。
参考 URL1: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0013935125012514
論文情報
Spatial and seasonal variations of polychlorinated biphenyl (CB-153) in the Seto Inland Sea and its response to declines in atmospheric and riverine input,
Yaxian Li, Xinyu Guo, Qian Leng, Min Yang, Yu Bai, Xueting Zhao,
Environmental Research, 2025, 281, 122000,
doi: 10.1016/j.envres.2025.122000.
助成金等
- Moonshot Research and Development Program (Grant Number JPNP18016)
- New Energy and Industrial Technology Development Organization (NEDO)
図表等
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瀬戸内海の水深分布(左)とPCBモデルの概念図
(a) 瀬戸内海の水深分布を示す。丸は河口の位置を表しており、黒線は豊後水道と紀伊水道を示しています。(b) CB-153の結合モデルの概念図です。Ca、Cw、Cwp、Cwdはそれぞれ、気相、溶存態、植物プランクトン結合態、デトリタス結合態におけるCB-153の濃度を表しています。
credit : 郭 新宇(愛媛大学)
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瀬戸内海におけるCB-153濃度の空間分布と季節変化
1月、4月、7月、10月における(a-d)溶存態CB-153濃度と(e-h)粒子態CB-153濃度の空間分布。
credit : 郭 新宇(愛媛大学)
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CB-153濃度の応答特性
大気および河川からの供給低減シナリオにおける溶存態および粒子態CB-153濃度の減少率。
credit : 郭 新宇(愛媛大学)
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問い合わせ先
氏名 : 郭 新宇
電話 : 089-927-9824
E-mail : guo.xinyu.mz@ehime-u.ac.jp
所属 : 愛媛大学先端研究院沿岸環境科学研究センター