地球や月といった天体のマントルに含まれる炭素量はどのように決まったのか?

高圧下における液体鉄-マグマ間の炭素分配実験

火山ガスによって地球のマントルから表層に供給される炭素は生命の起源と進化を育む惑星表層環境の形成・維持に重要な役割を果たしています。しかしながら、地球をはじめとした岩石天体のマントルに含まれる炭素量がどのように決定されたのか、という点についてはいまだに良く理解されていませんでした。

本研究では惑星の材料物質と考えられているコンドライトと似た組成の試料を用いた高圧実験を行い、分化した液体金属核と溶融マントルを持つ微惑星環境を再現し、マントルに分配される炭素量の見積もりを行いました。その結果、溶融マントルには飽和に近い量の炭素が分配されることを明らかにしました。さらに、マグマの炭素溶解度は地球や月といった天体のマントルで推定されている炭素量と良く一致し、地球や月のマントルに含まれる炭素量を説明するうえで核形成後に炭素に富む天体が降着させる必要がないことを明らかにしました。

惑星形成論によると地球をはじめとした岩石天体は小さな塵状の物質が互いに衝突、集積を繰り返してできたとされています。この過程において水星や火星サイズの惑星胚、いわゆる微惑星がいくつも形成され、最終的にこれら微惑星が合体することで現在の太陽系の岩石天体が形成したと考えられています。微惑星形成段階では天体内部の放射壊変元素や微惑星同士の合体に伴う衝突エネルギーから得られる熱によって天体内部は溶融していたと考えられています。この過程において、鉄とケイ酸塩は分離し、金属核とマントルを形成します。そして、金属核とマントル間では元素分配が起こり、親鉄性元素がマントルから除去されます。これまでの研究では、溶融した微惑星天体内部で分離する液体鉄とマグマ間の炭素分配を実験的に調べ、マントルに分配される炭素量が現在の地球マントルで推定される炭素量よりも非常に少ない状態にあったことを指摘していました。こうしたことから、地球マントルの大部分の炭素がいつ、どのようにもたらされたのかは大きな謎でした。

先行研究の実験ではグラファイトカプセルを使用していたため、試料中の炭素は飽和した状態でした。しかし、地球の材料物質と考えられているコンドライトに含まれる炭素量を考えると、地球全体が炭素で飽和している可能性は低く、さらに二相間の元素分配は圧力温度条件が同一であっても対象元素の濃度によって変化することが知られています。したがって、先行研究の実験結果を直接、地球のような岩石天体に適用することには注意を払う必要があります。このような問題点があるにもかかわらず、液体鉄-マグマ間の炭素分配に対する試料中の炭素濃度の影響は全く調べられていませんでした。そこで、愛媛大学、京都大学、海洋研究開発機構の研究者らは、グラファイトカプセルの代わりにSiO2ガラスカプセルを使用して、炭素未飽和条件下における液体鉄-マグマ間の炭素分配実験を実施しました。

その結果、地球材料物質と考えられているコンドライトと同程度の炭素量を含む試料において、マグマに分配される炭素量は、グラファイトカプセルを使用した炭素が飽和した場合と同程度であることが明らかになりました。このことは微惑星がコンドライトと同程度の炭素量を含んでいた場合、そのマントルには飽和に近い量の炭素が分配されていたことを示唆しています。また、微惑星同士の合体過程において金属核とマントルの混合が効率的でなかった場合、原始惑星のマントルにも同程度の炭素が保持されることが予想されます。実際に、金属鉄と共存下にあるマグマの炭素溶解度を地球や月マントルで見積もられている炭素量と比べた結果、両者が非常に調和的であることもわかり、本研究で提案する「炭素でほぼ飽和した微惑星マントル」仮説は地球や月といった天体のマントルに含まれる炭素量を良く説明することができます。今後、この仮説を検証するためにより高圧下での実験が望まれます。

参考 URL1: https://doi.org/10.1029/2021GL092389

論文情報

Nearly carbon-saturated magma oceans in planetary embryos during core formation, Hideharu Kuwahara, Shoichi Itoh, Akimasa Suzumura, Ryoichi Nakada and Tetsuo Irifune, Geophysical Research Letters, doi:10.1029/2021GL092389, 2021.

助成金等

  • JSPS 科研費 JP18J00966, JP18K13635, JP20H01994

図表等

  • 核-マントル分化過程における炭素分配の想像図

    核-マントル分化過程における炭素分配の想像図

    credit : 愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター
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