重症熱性血小板減少症候群に対する世界初の抗ウイルス薬の開発

ファビピラビルの重症熱性血小板減少症候群の致死率低下

【研究のポイント】
・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)はマダニ媒介性ウイルス感染症で、30%近い致死率にも関わらず抗ウイルス薬が存在しなかった。
・ファビピラビルのSFTSに対する臨床的有効性と安全性を検証するため、愛媛大学が中心となって医師主導型臨床試験が実施された。
・ファビピラビル投与により既報の致死率を約半減させることができた。
・本研究後、愛媛大学医師が責任医師として企業治験が実施され、有効性と安全性が確認された。
・これらの結果から、2024年6月、本邦においてSFTSに対する抗ウイルス薬としてファビピラビルが承認され、世界初のSFTS治療薬となった。

【研究の概要】
愛媛大学大学院医学系研究科血液・免疫・感染症内科学講座の安川正貴名誉教授(現愛媛県立医療技術大学学長)、末盛浩一郎准教授、国立感染症研究所ウイルス第一部西條政幸前部長(現・札幌市保健福祉局部長)らの研究グループが、富士フイルム富山化学工業で創製されたファビピラビルの重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に対する有効性と安全性に関する臨床試験を実施し、本剤が致死率を低下させることを示した。本臨床研究の結果を基に実施された企業治験でも有用性を示す知見が蓄積され、2024年6月に本邦においてSFTSに対する抗ウイルス薬としてファビピラビルが承認され、世界初のSFTS治療薬となった。さらに、2024年8月に薬価収載され、医療用医薬品として保険診療の対象となった。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は東アジアを中心として患者が発生する死亡率が極めて高いマダニ媒介性ウイルス感染症である。日本の疫学調査では、SFTS患者の致死率は27〜31%とされている。ファビピラビルは、RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害作用を有する抗ウイルス薬で、in vitroでウイルスの複製を阻害し、in vivoでSFTSウイルス感染マウスの生存率を大きく改善させることが示された。そこで、我々は国立感染症研究所と共同で、ファビピラビルのSFTSに対する有効性と安全性を検証するため、多施設非無作為化非対照単群試験を実施した。26例の患者が登録され、そのうち23例が解析対象となった。主要評価項目は28日死亡率であった。この23例のうち4例が1週間以内に多臓器不全で死亡した(28日致死率:17.3%)。ファビピラビル投与開始時のウイルス量に関連した生存率は、血中ウイルスゲノム量が1×105コピー/mLで統計学的に有意であった(p = 0.01)。ファビピラビルの忍容性は良好であった。ファビピラビルの投与により、SFTS患者の致死率は既報値を約半減できた。この結果を受け、富士フイルム富山化学工業株式会社により、ファビピラビルの安全性と有効性を検証するための企業治験が愛媛大学安川正貴を責任医師として実施された。死亡率は13%であり、われわれの臨床試験とほぼ同じであった。また、中国でもいくつかの臨床試験が実施され、日本と同様の結果が得られた。これらの結果から、ファビピラビルはSFTSの抗ウイルス薬として2024年6月に日本で承認され、世界初のSFTS治療薬となった。このことは、主要全国紙やNHK全国ニュースなどマスメディアで報道され、大きな反響があった。さらに、2024年8月に薬価収載され、医療用医薬品として保険診療の対象となった。最近、SFTSは従来のマダニ媒介感染に加え、ネコやイヌからの感染例も確認され、大きな社会問題となっている。今後、ファビピルビルによってSFTSの救命例が増すことが大いに期待される。

論文情報

A multicenter non-randomized, uncontrolled single arm trial for evaluation of the efficacy and the safety of the treatment with favipiravir for patients with severe fever with thrombocytopenia syndrome.
Suemori K, Saijo M, Yamanaka A, Himeji D, Kawamura M, Haku T, Hidaka M, Kamikokuryo C, Kakihana Y, Azuma T, Takenaka K, Takahashi T, Furumoto A, Ishimaru T, Ishida M, Kaneko M, Kadowaki N, Ikeda K, Sakabe S, Taniguchi T, Ohge H, Kurosu T, Yoshikawa T, Shimojima M, Yasukawa M,
PLoS Negl Trop Dis, 22;15(2):e00091032021,
doi: 10.1371/journal.pntd.0009103, 2021(Feburary 22).

助成金等

  • AMED感染症実用化研究事業「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」16fk0108102, 17fk0108202, 18fk0108102
  • JSPS科研費 16K09935, 19K08931

図表等

  • ファビピラビルを投与されたSFTS患者の生存率

    ファビピラビルを投与されたSFTS患者の生存率

    23名中4人が6日以内の多臓器不全で死亡し、全生存率は82.6%であった(A)。血中SFTSVウイルスゲノム量が多い患者(≧1×105コピー/mL、点線、n=10)と低い患者(<1×105コピー/mL、実線、n=13)の生存率で有意差を認めた(B)。この所見から、ファビピラビルはできるだけ早期に投与を開始することが有効であることが示唆される。

    credit : This research was originally published in PLoS Negl Trop Dis. Suemori K, et al. A multicenter non-randomized, uncontrolled single arm trial for evaluation of the efficacy and the safety of the treatment with favipiravir for patients with severe fever with thrombocytopenia syndrome. PLoS Negl Trop Dis.2021.
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問い合わせ先

氏名 : 末盛 浩一郎
電話 : 089-960-5296
E-mail : suemori.koichiro.ix@ehime-u.ac.jp
所属 : 愛媛大学大学院医学系研究科 血液・免疫・感染症内科学