現実の物質で見つかった光子のような四次元の電子
有機物中に存在する特殊な電子の行動範囲と移動速度
ディラック電子系と呼ばれる特殊な電子の物質中での振る舞いを観察することに成功しました。この研究は三次元空間(x, y, z)での電子のエネルギー(E)をグラフにするために、四次元空間(x, y, z, E)を必要とします。理論的にはいろいろな方向から分けて観測すれば良いのですが、この電子自体がこれまでの物質中の電子とは全く振る舞いが異なっているうえ、普通の電子も共存しているため、正攻法では観測できませんでした。同グループは電子スピン共鳴という測定に独自の解析法と理論計算を併用することで、これに成功しました。この結果分かったエネルギーの情報から、ディラック電子が物質内にどう分布しており、物質内の各場所(x, y, z)でどの方向にどのくらいの速さで動いているかが可視化できました。
P. ディラック(1933年ノーベル物理学賞受賞)が予言し、A. ガイムら(2010年ノーベル物理学賞受賞)によって発見された特殊な電子(ディラック電子)があります。これは質量がゼロで、物質中を光速で動き回ると考えられており、その意味では電子というより光子に近い存在です。こうした電子が物質の性質を担った場合、これまでの化学や物理は全く通用せず、超高速のコンピューター素子など画期的な応用も期待されています。しかしディラック電子は多くの場合、他の普通の電子と混在しており、区別して観測する方法が待ち望まれていました。愛媛大学の内藤俊雄教授らの研究グループは、北海道大学の島田敏宏教授、東邦大学の田嶋尚也教授らとの共同研究により、この特殊な電子だけをうまく取り出して、視覚的、直感的に理解できる方法を見出しました。それは例えば人間がCT検査をするように、電子スピン共鳴と言う実験により色々な方向から物質中の電子を観測します。一方、この実験とは独立な情報に基づいて、物質中の電子のエネルギー分布に関する理論計算も行います。この両者の結果を照らし合わせて解析すると、物質中にディラック電子がどのように分布し、どちらの方向にどれだけ動きやすいかが詳細に分かります。またこのような方法で得られた結果を三次元的なグラフや図に表現し、電子が物質中のどこにいるか、その居場所によっても性質が変わる様子が明らかになりました。その結果、通常の電子とディラック電子は本来は同じ電子で、物質中の居場所によってそのどちらにもなり、温度変化などにより両者は入れ替わっていることも明らかにしました。
参考 URL1: https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2024/ma/d3ma00619k
論文情報
Nearly three-dimensional Dirac fermions in an organic crystalline material unveiled by electron spin resonance, Ryuhei Oka, Keishi Ohara, Naoya Tajima, Toshihiro Shimada, and Toshio Naito, Materials Advances, 5(4), 1492—1501, 2024 (February 19), DOI: 10.1039/D3MA00619K
助成金等
- JSPS 科研費 (18K19061及び22H02034)
- 池谷科学技術財団 2021年度研究助成(ISTF; 0331005-A)
- 双葉電子記念財団 2021年度自然科学研究助成金
- 公益財団法人カシオ科学振興財団 第39回(令和3年度)研究助成
- 愛媛大学 カーボンニュートラル研究拠点形成検証事業
- キャノン財団 善き未来をひらく科学技術
図表等
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ディラック電子系を実現する物質の主成分の分子と円錐型電子構造の連続的変化
ディラック電子を含む物質に良くみられる特徴として、電子構造に円錐型の部分を持つという点があります。それに対し、通常の電子しか含まない物質には、丸みを帯びた電子構造しかありません。その両極をつなぐ連続的な電子構造の変化が起こる可能性に注目したことが、今回の研究の成功の秘訣でした。それをこの挿絵は表しています。
credit : 愛媛大学(内藤俊雄)
Usage Restriction : 次の引用が必要 https://doi.org/10.1039/D4MA90016B
問い合わせ先
氏名 : 内藤 俊雄
電話 : 089-927-9604
E-mail : tnaito@ehime-u.ac.jp
所属 : 大学院理工学研究科